vol.01 水辺

エディブルスクールヤード - 食べられる校庭がまちを変える

アメリカ西海岸の街、カリフォルニア州バークレーに、校庭を農園に変えてしまった中学校があります。 マーティン・ルーサー・キングJr.中学校にあるその農園の名前は「エディブルスクールヤード=食べられる校庭」。生徒たちの学びの場であり、生徒と地域の人々との出会いの場にもなっている、そんな農園の取り組みを紹介します。

(文と写真:山崎亮)


「食べられる校庭」誕生

きっかけは、世界的に有名なオーガニックレストラン「シェ・パニース」のオーナーシェフ、アリス・ウォーターズさんの提言でした。ウォーターズさんは、新鮮な素材を生かした繊細な料理でアメリカの食に新しい風を吹き込み、「カリフォルニア・キュイジーヌ」の創始者と言われています。

通勤途中、毎日のようにキング中学校の前を通っていたウォーターズさんは、中学校の荒廃ぶりに心を痛めていました。
壁には落書き、芝生は黒焦げ、窓ガラスは割れている。シェフになる前は小学校の先生をしていたということもあり、何とかその荒れた中学校を立て直したいと考えるように。
そのことを雑誌のインタビューで語ったところ、キング中学校の校長先生から直接連絡があり、意気投合、協力して中学校の再生に取り組むことになりました。

ウォーターズさんの理想的なプログラムは、食べ物を育て、調理し、食べることを通した教育。そこで、中学校の駐車場を農園にして食育のプログラムをつくろうということになったのです。300人の生徒、10数人の教職員、100人を超える地域ボランティアの人たちと一緒に、駐車場のアスファルトを剥がし、土を耕し、3年をかけて豊かな実りをもたらしてくれる農園が誕生しました。

エディブルスクールヤード

駐車場のアスファルトを剥がして農園に *

元の姿が想像できないほど、今は緑にあふれています

地域ぐるみで育てる農園

プレートもひとつひとつ手作りです

キッチンの設備は充実しています

みんなで食卓を囲むと、自然に笑顔がこぼれます *

新しくできた農園のまわりに柵はありません。
生徒だけでなく、農園を一緒につくった地域の人たちも気軽に利用できるようにしているのです。運営には、ガーデンコンサルタントや地域のボランティアなども参加していて、子どもたちと地域の人とのふれ合いの場にもなっています。農園が学校と学校外のコミュニティとをつなぐ、仲立ちの役割もはたしているのです。
子どもたちは農園で野菜や果物をつくり、採れた食材をつかって自分たちで料理をしています。農園には一流のシェフが使うような道具をそろえた、立派なキッチンがあります。普段、料理はキッチン専属のスタッフと一緒に作るのですが、時々シェ・パニースのシェフが直接教えに来ることも!教師以外のたくさんの大人が関わっていることも、この取り組みの特徴です。
こうしてつくった料理はおそとでいただきます。農園の一角にある長い机にみんなで座り、きちんとした食器で一緒に食べる。それも、子どもたちが食べることの大切さを心から感じることができる、豊かな時間です。みんなで囲んだ食卓が、おいしくて楽しい、ということが子どもたちの心にじんわり染みていくのです。

「おいしい」から広がる学び

裸足で農園を歩く少年たち。何か気になるものがあったのかな?

親子の語らいの場にもなっています

生徒たちが学ぶのは、野菜の育て方や調理の方法だけではありません。効率的に作業ができる農園の面積を計算したり、水と土の性質を知ったり、古代人の食事を調べたりしながら、算数や理科や歴史を学んでいます。教科書とにらめっこしながら勉強するよりも、触れて、見て、自分で考える、そんな授業が、子どもたちの学習意欲をかきたてるのだといいます。
また、食卓に着くことの楽しさ、体を動かして働く喜び、コミュニティの本当の意味などを体感できるのも、農園があるから。おそとで野菜を育て、調理し、食べることを通じて、子どもたちは想像以上に多くのことを学んでいます。今では、カリフォルニア州だけで、幼稚園から大学まで3000ヶ所以上ものエディブル・スクールヤードが存在しています。

ウォーターズさんは言います。
「農園で獲れたおいしい食べ物を食べる喜びは、地球と自分自身にとって正しいことをしているという道徳的な満足感も伴っているのです」。

自然を大切にし、周りの人を思いやる。農園を通して、子どもたちが、そういうことに喜びを見いだすことができるようになっています。エディブルスクールヤードは、そんな「おいしい」からはじまる変化を、学校だけでなく地域全体にもたらしているのです。

* 出典:Alice Waters “Edible Schoolyard” Chronicle Books, 2008


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