毎日を豊かに生きるために、おそとでサボろう!

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中学生のころから、ひとり自転車で出かけてはキャンプで焚火をし、新婚旅行はメキシコでカヤック&ハンモック三昧と、アウトドア好きの寒川一さん。会社員時代には会社をサボって海へ行き、上司に正直に打ち明けて、社内のムードを一気に“サボり容認”に塗り替えたという逸話を持つ、「サボり」を愛し、実践する人でもあります。そんな寒川さんは、より多くの人に楽しい「サボり」を経験してもらおうと、アウトドアグッズを用いた「サボり」体験を提供する店「3knot」までオープン。夕暮れの海辺で焚火をしたり、満月の夜の散歩ツアーを催したり、ハンモックで昼寝ができる会員制の昼寝クラブをつくったりと、ほかでは体験できないような楽しい「サボり」活動の普及に取り組んでいます。なぜ「サボり」がテーマなのか?おそとでサボる魅力とは何か?寒川さんのサボりにまつわる活動への思いを伺い、併せて「焚火カフェ」なるサボりイベントも体験させていただきました。
(取材・文/森田香子 撮影/出原和人 編集/福田アイ)

 

 

 

「サボり」は、うまく生きるために欠かせないもの

 

―寒川さんの考える「サボり」とは、どんなものですか?

サボることって、世のなかでは悪いことのように思われていますけど、実はすごく日常を大切にするからこそ出てくるものであって、人がうまく生きていくために必要なことだと思うんです。サボるということは、イコール働きたくないということではなく、働いてばかりは嫌だということの表れであって、毎日、豊かな時間を過ごせるなら、ちゃんとみんな働くんですよね。そのバランスを取るものが「サボり」なんだと思います。

 

僕の場合、「サボり」 のためのツールとして、ハンモックや焚火道具といったアウトドアグッズを使っています。例えば、ハンモックでだらだらと過ごす時間は、僕としては世のなかに必要な「サボり」の時間じゃないかと思っていて。だから、景色の良いところで、ハンモックを張って寝ころんだときの心地よさを楽しんでもらう「ハンモックハンティング」という体験ツアーを催したり、どこでもアウトドア気分になれるハンモックを使って昼寝ができる会員制施設「ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ」を開設したりしているんです。

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「ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ」

 

―「サボり」をテーマに、いろいろな楽しいサボり方を提案しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

 

僕自身がサラリーマン時代に、ずっとサボりたいと思っていたからです(笑)。20年ほど前の話ですが、当時、玩具メーカーで商品開発をしていました。働きはじめて2年目くらいのときに、初めて会社をサボったんです。その日、最寄り駅のホームで会社に向かう電車を待っていたとき、ふと自分が乗る電車とは反対方向に行く電車に乗っている人たちが目に入って。そこに乗っている人たちは、釣り道具やゴザを持っていて、どう見ても今から遊びに行く人たちばかり。同じホームのなかで、僕が乗る電車にはスーツを着てうなだれた人たちばかりなのに、反対側にはそんな楽しげな人たちがいて、なぜこんなに違うんだろうと思って。

 

そんなことを考えているうちに、会社と逆方向に向かう電車の終点には、駅前に海が広がっていて、パラダイスがあるんじゃないかと妄想まで膨らんで(笑)。結局、いつもとは違う電車に乗ってしまったんです。どんどん会社と反対方向に進むときの、あの“やってしまった感”は、変なたとえですが“おねしょ”みたいな罪悪感と妙な気持ち良さがあって。これが「サボり」なんだなと、実感しました(笑)。

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三崎港

 

翌日、上司に無断欠勤の理由を聞かれるだろうと、いろいろ言い訳を考えたんですが、顔が日に焼けて真っ黒になっていたから、もう言い逃れできないと正直に海に行ってしまったと伝えたんです(笑)。もちろん上司から説教はされましたが、僕のこの掟破りの行動を機に、なぜか部内には「たまには寒川を見習って、サボったほうがいいよね」という雰囲気が広がって、部内全体にいい空気が流れるようになったんです(笑)。そういう経験から「サボり」を面と向かってできるようなサービスがあればいいなと思うようになって、店をはじめました。

 

 

ちなみに「サボり」を提供している三浦半島は、僕のなかでは「サボり半島」と呼んでいるくらい、サボるのにぴったりな海も山も、きれいな夕日もあって、焚火もできる場所です。特に「ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ」のある三崎は、僕が初めて会社をサボった日に辿りついた町ですが、何にも抗わない、追随もしないし、ただそこにあるだけでいいという肯定感を強く感じる町で、僕がハンモックと出合った中南米に通じる雰囲気があります。東京から電車で2時間ほどと距離もそう遠くはないから、帰ろうと思えばすぐ帰れるので、サボりの場としては最適です。遠すぎる場所は、サボるというより、本当に道を踏み外すような怖さがありますからね(笑)。

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三浦大根の畑

 

自然を感じながら、日常を忘れてサボりトリップへ

―今回は、冬ということもあって、「3knot」のイベントのひとつ「焚火カフェ」を体験させてもらうのですが、これはどういうものですか?

 

海辺で夕日を見ながら焚火するイベントで、7年くらい前からやっています。三浦半島の西側には相模湾があって、海越しに富士山や箱根の山々が見えるんですね。ちょうど富士山を眺めながら海に日が沈む、非常に美しい景色を眺められる浜辺があるので、そこで夕暮れのひとときを楽しむ方法のひとつとして、「焚火カフェ」を開いています。日が沈むころから夜になっていくときの空のグラデーションってきれいじゃないですか?あの、1日のなかで最も空がドラマチックに変化する時間帯に、2時間ほどかけて浜辺で焚火をしながら、コーヒーを淹れて飲んだりして、ゆったり過ごすことがコンセプトです。

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―“焚火”にはどんな「サボり」の効能があると思いますか?

 

キャンプファイヤーみたいな燃え盛る火は、人に恐怖と興奮を含んだ狂気めいたものをもたらしますけど、逆に目の前でゆらゆらと揺らめいている程度の小さな火は、鎮静効果があります。焚火は、後者の部類に入ると思います。「焚火カフェ」にしても、たった2時間程度の催しですが、焚火を囲んでいると、丸一晩、過ごしたみたいな、すごいトリップ感があるんですよ。僕らはいつも時計の時間で動いているけど、炎を見ていると、時間感覚がなくなります。それに加えて、目の前の海から波の音が聞こえるから、いっそう時間感覚がわからなくなっていく。そういう体験をしてもらいながら、なるべく現実から自分を切り離してもらうことが、このサボりの一番の醍醐味だと思います。
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刻々と変化するおそとは、飽きることがない

―おそとで“サボる”魅力とは、どんなところにあると思いますか?

 

外は非日常を味わわせてくれるという魅力があります。キャンプにしても焚火にしても、それを味わいに行くという面がありますからね。さらに外は、刻々と変化していきます。家のなかにいても何も変わらないけど、外は気温も気象も変わるので、たとえ同じ場所に同じ時間に行ったとしても、一日として同じ景色はありません。そしてそれは、決して僕らを飽きさせることがないんです。

 

都会では、新しいものをつくって話題を生みだし、人々を惹きつけ、集めていくということがよくされています。それとはまったく逆の、もっと自然のものの面白さが、外にはあるんです。自然はずっと同じではなく、常にアップデートしているのに陳腐にならない。つまり、毎日同じようでいて新しい、だけど古臭くならないというのが、外や自然の魅力だと思います。そこに気づきはじめた人が増えてきているからこそ、外でサボりを楽しもうと僕らのイベントに参加する人が増えているのではないかと思いますね。
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―サボりたいけどサボれない人や、まだサボったことのない人に、アドバイスをするとしたら?

 

「サボりたいと思ったときが、サボりどき」ってことですね。サボるという行為は、世のなかから鍵をかけられているというか、誰かのお許しがないと、できないようなイメージがある気がします。でも、誰かのお許しなんて待っていたら、一生サボれません。サボりたいと思ったときにサボらないと、人生なんてあっという間に終わってしまいます。ただサボりは、日常の、その人なりの頑張りがあってこそ成り立つもので、決してサボりが日常のメインになるものではありません。ひとつのエッセンスとして、日々のなかにサボりを取り入れながら、うまく気分を切り替えて、自分のしたいことを思い切りするための力にしていけばいいんじゃないかと思います。

 

僕としては、昼寝でも何でも構わないので、自分からサボりはじめる人たちが増えてくれば、世のなか、もっといいバランスがとれるのではないかという気がしています。効率や合理的な発想のなかでは生まれてこない、何もしない喜びや豊かさみたいなものもあるわけですから。「3knot」が提供するいろいろなサービスが、みんなのサボりはじめるきっかけになったら、うれしいです。
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ありがとうございました。

 

 

焚火カフェ体験メモ

焚火道具一式を積み込んだ車に乗り込み、寒川さんの案内で焚火スポットの浜辺へ。焚火のセッティングは、すべて寒川さんが手際よくおこなってくれます。当日、天気は良いものの、あいにくの強風で、普段のような浜での焚火はできませんでしたが、相模湾の先に浮かび上がる富士山の姿や、冬の海に沈むきれいな夕日を眺めているだけでも、十分、リラックスできました。
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風を避けたところで焚火をおこしてもらい、生豆から焙煎してもらった焚火ブレンドコーヒーは香ばしく、冷えた身体にしみいる温かさ。ブランデーをひと振りし、シナモンやクリームを添えた本格的な焼きリンゴは、ほっと和ませてくれる、やさしい甘さでした。

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左の白い豆が生豆。右は焙煎後。

 

浜辺では、同じように小さな焚火を起こして、サボっている男性を発見。聞けば、過去に「焚火カフェ」に参加した方で、以来、ひとりで海にサボりに来るようになったとか。この日は、町内会の集まりをサボって来たそうです。

 

海、夕日、焚火、波の音、まさに非日常を体験できたひととき。風のため撮影は大変でしたが、焚火後は、すっきりとした晴れやかな気分で、焚火の香りを全身に焚きしめたまま、帰路へとつきました。

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「3knot(サンノット)」イベント情報

fire  焚火カフェ
一夕一組限定、2名~受付、要予約
利用料金:焚火道具レンタル代1名2,500円+焚火メニュー代

apple  焚火メニュー
・ミニダッチオーブンで焼く焼きリンゴ              1,000円
・焚火の炎で生豆から焙煎するオリジナル焚火ブレンドコーヒー
(ポットサービス4杯分ほど)                    2,000円
・焚火で焼くホットサンド(2枚セット)                           1,000円
・焚火フォークで焼くマシュマロ(4ケ)クラッカーつき         500円
・焚火フォークで焼くソーセージ(2本)                             1,000円
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予約・問い合わせは、
メールsan@ozzio.jp 電話090-5502-1780まで

そのほか、満月散歩、ハンモックツアーなど、胸を張ってサボれるイベントについては、「3knot」のホームページをチェック!
http://www.3knot.com/information/

 

 

ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ

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住所:神奈川県三浦市三崎3-3-6 旧米山船具店
定休日:火曜  11:00~19:00(季節や曜日によって多少変動あり)
入会金:2,100円(1年間有効)
利用料金:1,050円/1時間

Facebookページ
http://www.facebook.com/hirunejo

 

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毎日を豊かに生きるために、おそとでサボろう!

寒川 一(Hajime Sangawa)

香川県丸亀市出身。玩具メーカーに約10年勤めた後、2006年に横須賀市秋谷で「3knot(サンノット)」を開き、「サボり」をテーマにアウトドア グッズの販売やそれらを使った体験サービスの提供を開始。2012年には三浦市三崎の三崎下町商店街にある築90年以上の船道具屋を改装し、日本初の会員 制ハンモック昼寝施設「ミサキ シエスタ サヴォリ クラブ」をオープン。自身の祖先が、約600年前、現在の香川県に実存した難攻不落の城「昼寝城」の城主であることから、同施設を「昼寝城」という愛称で 呼んでいる。最近は、災害被災時に役立つアウトドアのノウハウを楽しく学ぶ体験型防災キャンププログラムをおこなう団体「STEP CAMP」を設立。行 政との協働などを通して、随時プログラムを開催している。