人生をより良くする自転車は生涯の友だち

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チャイルドトレーラーを取り付けたロードバイクで都心を颯爽と移動する女性。といえば、注目の的となるのが現在の日本。そんな日本の自転車事情や環境へ大いに関心を寄せ、その発展に貢献しようと活動されているのが自転車ジャーナリストの岡田由佳子さんです。10代のころは自転車競技の選手として華々しい成績を残した経歴の持ち主でもあり、現在は毎日の移動手段として自転車が欠かせないほどのサイクリスト(自転車愛好家)。公私ともに自転車漬けの日々を送る岡田さんの持説は「自転車は友だち。そして、私たちの人生をより良くしてくれる」というもの。この秋からは、自転車の楽しみを伝える展示という表現もはじめられました。その初となる会場へ伺い、自転車を使いこなす暮らしや自転車ジャーナリストとしての仕事内容などについてお聴きしました。街で自転車を楽しむ達人だからこそのお話は、私たちの自転車ライフにより良い影響を与えてくれますよ!
(撮影/沖本明 編集・文/福田アイ 協力/ダイヤメゾン

 

新しい発見やドラマティックな光景にたくさん遭遇する

 

普段はどのような自転車使いをされていますか?

自転車は日常になくてはならない存在です。自分の家から5、6キロぐらいなら、自転車で移動しますね。逆に、電車は豪雨や嵐のときは乗りますけど、それぐらいです。最近はチャイルドトレーラーを引っ張ることが大半で、保育所の送り迎えや、黒門市場に買い物に行くんですが、そのときも。骨董市巡りにも役立っていますね。

育児とかで家にずっと居るとき、外に出せない気持ちがたまってきたりすると、旦那さんに子どもたちを見てもらって、一人でロードバイクに乗って漕ぎ出すこともあります。モヤモヤやイライラした気持ちをペダルにぶつけるみたいな(笑)。変に怒りのパワーが出てきて、走ってぶつけるという(笑)。だからか、走るだけで、すっきりするんですよね。八つ当たりというわけではないけども、ペダルを漕いでハンドルを握って走ると、いつのまにか違うことを考えてますね。「あれ、こんなところに、いい店あるやん」と、気が別のものに行ったりして。

 

他の移動手段にはない自転車の楽しみはありますか?

「この店、気になるな」ということは多いですね。ネット限定の販売とかあるように、店頭だけで安いお菓子や処分したいものを売ってたりとか、そういうのを発見するのはおもしろいですね。

夜も走ったりするんですけど、夜は夜で、夜景を楽しめたりしますね。御堂筋を走るのが特に好きで、移動するときには好んで走りますが、秋だと、色づいたイチョウ並木を見られたりするんで、いい季節ですよね。それに、御堂筋って、ドラマがあるんですよ。例えば、自転車に乗る男の子が、車椅子に乗る女の子の手をつないで移動しているシーンを見て、ほっこりしたこともありますし、イルミネーションの飾り付けをしている人の真剣な表情を見られてイルミネーションへの期待がますます高まったりしたこともあります。歩いていても見えるけど、自転車は長い距離を走れる分、たまたま見える光景が多くて、また良いな、と。

なんといっても、ペダルを漕いだら、すぐいろんなところへシュっと行けて、風を切ったり、なめらかに移動できたり、すごく気持ちいいんですよね。ロードバイクは、すっごく軽いし、漕いでいるという感じはないですね。1回漕ぐと、100mくらいは進むんですよ。すーーっと体だけ飛んでいるという感じですね。漕いだら漕いだ分だけスピードが出て。といっても、チャイルドトレーラーを引っ張っていると、漕いでも漕いでも、さほど進まないですけどね(笑)。
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チャイルドトレーラー歴3年。「実は、一般の人には運転がかなり大変です。幅が広くて歩行者に気を使いますし、どんな車がまわりに来ているかを察知しないといけないので」

 

 

一生乗れる移動手段だから環境を整えていきたい

 

 自転車ジャーナリストとして、どのような仕事をされていますか?

今まで、ツール・ド・フランスなど世界の自転車についての取材をしてきましたが、「日本の自転車を盛り上げたい」という思いが強く、フリーになった今は、そこへ力を注いでいます。重要視しているのは、お年寄りと子育て世代の自転車事情。ですが、それを辿って行くと、交通環境が悪いことがわかってきたので、交通環境を良くするために取材をしたりしていますね。

公の方々から、ちょっとでも「自転車環境を良くしたい」という発言があったら、ちっちゃな発言でも見逃さずに、取材をさせてもらって、とにかく公的な発表にしてしまおうと狙っています。そうすると、言った本人もヤル気になるし、環境を変えざるを得ないというか。

また、イベントなどに出向いて、頑張っておられる方や凄いことをしている方、自転車の世界に必要なニーズのために動いている方を、なるべく見つけ出して、ちゃんと話を聴きに行きますね。例えば、お年寄りの自転車事情だと、先日、80代の現役サイクリストに出会って、そういう人って珍しいので、取材をさせてもらったんです。その記事を読んだ50代や60代の人が「80代まで乗れるんだ」「80代まで現役で乗りたいな」と思ってくれたらいいな、と思いますね。

高齢者のことって、自分の親にも影響してくるし、実は、自分の将来にもつながっていったりするので、自転車の環境だけではなく、生活に活かせるような自転車を考えていきたいですね。歩くしかできない高齢者が古くからの友人に会いたいけど、公共機関の駅からは遠いし会えないな、という場合でも、自転車という選択があれば、難なく会えますよね。孤独にならずにすむし、親しい友人に会うというのは元気が出たり、人生にメリハリが出たりするものなので。

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10月に開催された個展では、自転車のパーツなどを美術品感覚で楽しめる展示も

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展示のなかには、1950年代に日本で誕生し、世界へ輸出するまでに成長したサンツアーブランドのヴィンテージパーツも。「日本だって素晴らしいし、ヨーロッパに並ぶセンスやデザインを持っている」と岡田さん

 

岡田さんにとって自転車とは、どういうものなのでしょうか?

自転車は、生活をより良くするものと思いますね。一生使えるもの。一生乗れる移動手段なんですよね。移動、ということを考えたら、買い物に加えて、人に会いに行けたりしますし。そういう部分で、一生使えると良いかなと。工夫をすれば、自分の生活のいろんなツールになるんだろうな、と思っています。

日本では、「足」という感覚で、ママチャリという文化が根付いていますよね。それにみんなが、乗っているもの。だからこそ、自転車の扱い方を良くしてあげて、まだまだある良い部分を取り入れたら、日本の人たちの生活が変わるのかなと思いますね。例えば、空気をちゃんと入れたら、自転車の軽さって違うし、ママチャリもちゃんと磨いて大事にすれば一生乗れると思うし。それと、買い物はママチャリ、長い距離を移動するときや季節を感じたりしたいときは、軽い自転車や移動がしんどいと思わないような自転車でとか、種類を増やして用途によって変えてもいいと思いますね。

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展示で目立っていたのが、ヴィンテージ自転車専門店「ビチクラシカ」が蘇らせたロードバイク。「大切に使えば、次の代の人も使えます」と岡田さん

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今では滅多に見られないというイタリア製の木製のリム(CHISALLO キザロ)。現在、製造販売が再開されているとのこと。このように、ひとつひとつのパーツを説明してもらうと、1台に込められている相当な技と熱さが伝わってくる

 

 

街に馴染めて、季節や人と繋がれば、何もない日も楽しい

 

都心で自転車を乗る良さはどんなところでしょうか?

東京に住んでいたときのことですが、地下鉄を利用する場合、地下に潜って、ワープするように次の目的地に着きますよね。すると、点と点でしか繋がらなくて。ある日、自転車で移動しはじめたら、地上にあるいろんな街が繋がって、わかるようになって、土地勘が付いて、親しみを持てるようになったんですよね。田舎者でよそ者で、一人暮らしということもあって、そういうので、街に親しみが湧いてくるっていうのは、嬉しかったですね。

大阪では、心斎橋や難波へは、私が住む街からは地下鉄ではめちゃくちゃ行きにくいイメージがあって、一回地下に入って、一駅分ほど歩いたんちゃう?というほど歩いて電車に乗り、駅に着くと、目当ての店に行くのにまた歩かないと…となりますが、自転車で行と、その場に直行できて、人混みも避けて行けます。

電車だと駅のまわりくらいしか行かないし知らなかったけど、自転車で移動すると都心全体の地図が頭に入ってくるということも良いことですね。距離感を掴めると、東京は、なんて広いんだと思いましたしね。そういう意味では、大阪は、なんてほどよい大きさなんだと思いますね。

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個展では、岡田さんの自転車のパーツも“友だち”として展示

 

そんな岡田さんだから感じるおそとの魅力とは何でしょうか?

季節も人も感じられるということです。寒い時期に移動しても、暑い時期に移動しても、いいなと思いますね。寒い時期があったからこそ、春が来て、「ああホっとするわぁ」となる。生活をしていると、しんどい日もあるけど、だからこそ、何もない日が楽でいいなと思えるのと同じで、自転車に乗っていても、気分や季節によって、「今日は過ごしやすい日やな」「今日は曇っててイヤやな」とか、そういうのがあると、メリハリになるっていうか。何にもない日でもすごく楽しいです。

それに、外に出ないと人に会えないですよね。自分自身は、他人がいるから成り立っていると思うんで、何をするにも外に出ないと。自分の目で見て、感じてというのは、インターネットでもできるけど、実際に会ってみて、人の目を見て話すことと比べると、やっぱり、実物に勝るものはないと思うので、体感しないといけないと思いますね。それを、自転車を使っておこなうと、いっぱい体感できます。自転車は、移動するだけでも、出会いが多くて、内容の密度は濃いですからね。
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ありがとうございました。

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人生をより良くする自転車は生涯の友だち

岡田由佳子(Yukako Okada)

愛知県豊橋市出身。大阪市在住。高校時代に、運動神経の良さを見込まれスカウトされたことで、自転車競技の世界へ。全国高等学校選抜自転車競技大会500mTT(タイムトライアル)で優勝、ジュニアオリンピックカップ(JOC)でも優勝。スポーツ推薦により順天堂大学へ入学後、選手からマネージャーへ転身。大学4年生のときに日刊スポーツのインターンシップで日本最大級の国際自転車ロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」の公式広報として参加。そこで執筆業に向いていると広報担当者から伝えられ、2007年に自転車ジャーナリストへ弟子入り。世界最高峰のロードレース「ツール・ド・フランス」などを取材する。2010年には結婚と同時に大阪へ移住。その後はフリーランスとして、多くの媒体に寄稿している。2014年10月、イラストレーターの妹であるZUZUCOとともにダイヤメゾンのギャラリーにて初個展『Amis de velo(アミベロ、自転車は友達)』を開催。著書にはツール・ド・フランスの取材時に触れたフランス文化を紹介する『7月のフランス 自転車とともに』(えい文庫)がある。自身所有の自転車は、競技用バイク2台、ロードバイク1台、ミニベロ(小軽車)2台。

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