一番いい感じに伝わる “音楽”と“笑い”の野外フェスを目指して

2005年にはじまり、今や大阪発・野外夏フェスの代表的存在となった「OTODAMA〜音泉魂〜」。活きのいいロックを鳴らすアーティストのライブを中心に、お笑い芸人のパフォーマンスやプロレスも盛り込んだ、子どもから大人まで楽しめるアットホームなイベントとして人気を博しています。その企画運営をおこなう中心人物、清水音泉の清水裕さんのインタビューをお届けします。「OTODAMA〜音泉魂〜」への思い、イベントを続けてきたからこそ得られたもの、知られざる現場秘話、そしてこれからの展望についてじっくり語っていただきました。大阪生まれ大阪育ちの清水さんならではのユーモアセンスや人情味、そして音楽とアーティストへの愛情が結びつくとき、そのおそとにはどんな空間と空気が生まれるのでしょう? 
(取材・文/森川和美 編集/福田アイ)

“大阪ならでは”を目指した「OTODAMA〜音泉魂〜」

―このイベントをスタートさせたきっかけは何だったのでしょう?

 2004年にサウンドクリエーター(*1)内に“清水音泉”というロックミュージックをお届けする部署が立ち上がり、「自分たちで夏フェスみたいなものを作りたいよね」という話になりまして。まぁ、すでに世間では夏フェスが溢れていたので、もう隙間はないなとは思いましたが、何とか無理やり隙間を作ってはじめました(笑)。
 大阪のイベント会社なので、お笑いも含めて大阪らしい要素を何かしら盛り込んでいきたいというのはもちろんありましたが、僕自身、根っこに持っているのは日本で一番古いと言われている野外音楽イベントの「春一番」(*2)なんです。1回目が行われたのはもう40年以上前で、一旦休止になったけど、また最近復活しましたよね。あのイベントのゆるーい雰囲気がすごく好きなんですよね。例えば、本番中やのに開催者がステージのアーティストに向かって「時間ないから1曲減らして!」みたいなことが言えてしまうような、その場のノリでの仕切りや、お客さんとアーティストが一緒になってイベントを盛り上げていく雰囲気とか。
 とにかく大阪でしか成り立たないもの、その場でしかあり得ないものがないと面白くない、という思いはどの現場でも常にありますね。
それから FUJI ROCK FESTIVAL(*3)にも少なからず影響は受けています。
 やはり初めてあのイベントが立ち上がったときは「何じゃこれ?」と思いました。新潟県の苗場スキー場で開催されていますが、あんなに豊かな自然に囲まれた場所でライブが観られるというのも、貴重なことだと思うんですよね。

―イベントにはどのような思いが込められているのですか?

 知らないバンドを観て好きになってもらいたいですし、有名無名問わず、どのアーティストも同じ場所でフラットな状態で観て興味を持ってもらいたいです。
 それから、アーティスト同士の横のつながりもすごく大切なんですよ。全然知り合いじゃないアーティスト同士だと、やっぱり楽屋でもいいグルーヴが生まれない。それは当然ステージにも影響してくるので、大切にしているところですね。去年だったら、奥田民生さんがすごく影響を受けた、子供ばんどにも出演していただいたのですが、お客さんたちには「奥田民生はこういうバンドに影響を受けたんだ」って分かってもらえるし、若い世代にも子供ばんどがどういう人たちなのか知ってもらえる。そういうきっかけの場になってほしいんですよね。
 あと、アーティスト同士の交流の場にもなってほしいです。バックヤードではバーベキューをやったりして、アーティストたちが呑みながら喋ってますね。実際あったんですよ、楽屋や打ち上げで盛り上がって一緒に何かやろうよって話になって実現したアーティストが…誰かは忘れましたけど(笑)。だからうちのイベントは本番だけでなく、打ち上げも参加必須でスケジュールを押さえさせていただくんです。

*1 サウンドクリエーター/大阪はじめ、関西でおこなわれるライブやイベントを企画・運営するイベント会社 
*2 春一番/1971年5月のゴールデンウィークに大阪・天王寺公園野外音楽堂で開催された、大規模な野外コンサート。ジャンルを問わず関西で活動するミュージシャンが集結。一時中断されたが1995年から再開し、1996年からは、毎年、服部緑地野外音楽堂で開催されている。
*3 FUJI ROCK FESTIVAL/1997年からスタートした、日本最大級の野外ロックフェスティバル。国内外200組以上のミュージシャンが集まり、観客動員数は毎年10万人を超える。

肌感覚で音が伝わる野外フェスのベストキャパは10,000人

―野外コンサートや野外フェスの魅力ってどんなところにありますか?

 まず単純に規模が大きいので、たくさんのお客さんを一度に集めて、いろいろなアーティストを観てもらえることが一番の魅力ですね。「OTODAMA〜音泉魂〜」に関しては毎年10,000人くらいのお客さんに来ていただいて、15〜16組のアーティストに出演していただいています。これくらいの人数が、一番いい具合にアーティストの持ち味や魅力が伝わるんですよ。多すぎず少なすぎず、適度なアットホーム感があって。
それから良くも悪くも天候に左右されることですね。月が出たり、稲妻が走ったり、夕陽がきれいだったり、海風が気持ちよかったり、虹が出たり、時には通り雨に遭ったり…そういう自然の演出があることで、音の伝わり方が屋内とは変わってくるでしょうし、ステージからは海と夕陽が見えるのでそこはアーティストとしては気持ちいいみたいですね。

―「OTODAMA〜音泉魂〜」は一般的な野外夏フェスでは禁止されているビールの持ち込みや日傘の使用が許されているんですよね?

 会場を「スタンディング」、「レジャーシートOK」、「日傘OK」とエリア分けして、自由に場所を選べるようにしているんですが、そういうことができるのも野外ならではでしょうね。お客さんにもいろんな方がいらっしゃいますしね。ステージの真ん前で元気に踊って楽しみたい人もいれば、お子さん連れの方もいらっしゃるし、呑みながらゆっくり観たい人もいますし…だから安全面のことも考えつつ、できるだけ多くの方に足を運んでいただきたいな、と思ってエリアを分けています。
 やっぱり規則がたくさんあり過ぎても面白くないと思うんです。だから、お客さんの自己責任で、それこそ法に触れない程度に、自由に楽しんでいただきたいんですよね。
 そういう暗黙の了解というか…、いい意味での自由な雰囲気が理解されるのも、さっき言った10,000人がちょうどいいんですよね。これは、ずっと「OTODAMA〜音泉魂〜」を続けてきて体感的に知りました。10,000人ならお笑い芸人のガリガリガリクソンがステージに (*4)立っても笑ってもらえるし、許してもらえるけど、15,000人になるとこのシャレが伝わらないんですよね、たぶん。この人数だからこそ、ステージとお客さんとの距離感がいい具合で、なおかつ、肌感覚で音やパフォーマンスが伝わるギリギリのキャパが10,000人なんだと思います。

*4 お笑い芸人のガリガリガリクソンがステージに/2012年は、ライブの開演MCをガリガリガリクソンが、ガリーぱみゅぱみゅと名乗り担当。メインステージ以外に設けられたサブステージで、パフォーマンスもおこなった。


自治体に自らかけあって手に入れた会場、そして未来図は?

―会場は、都心に比較的近いロケーションの泉大津フェニックスという広場ですが、この場所に何かこだわりがあるのでしょうか?

 まず、野外でやるためには音量の問題があって、これをクリアしなければ開催できないんですよ。でも、今やってる泉大津フェニックスにはこの規制がないんです。と、いうのも、同じ泉大津フェニックスでおこなっている、RUSH BALL(*5)というイベントを立ち上げた、他社の方と一緒に大阪府にかけあって、音量規制のないこの場所を作ってもらったといういきさつがありまして。「全国にはこんなにたくさん会場があるのに、大阪には芝生が生えていて音量規制のない場所はないんです!」って切々と訴えたんです…そしたら何と、こさえて(=こしらえて)くれはったんですよ。
 でも、ここも音の問題が無い代わりに日陰や自然が無かったり・・・。理想としては海か山が近い場所があればいいのですが。泳ぎながらライブが観られるか、山の木陰で涼しく観られるか、どっちかで(笑)。能勢辺りに良い場所無いか?とも思ってるんですが。大阪市内から電車で1時間くらいだからわりと近いですし、大阪なのに自然が豊かでのんびりしていて大阪っぽくない雰囲気がありますしね。このほかにも、どこかいい場所があればぜひとも紹介していただきたいです!

―来年10周年ということで、今までいろんな逸話もあったんでしょうね。

舞台裏では、お腹が痛くなるような出来事が多いですね(笑)。これは毎年ですが、ウェザーニュースの配信センターからリアルタイムに送られてくる天気図や天気予報を見ては「あぁっ!雨雲来てるよ!やばいよ、どうする?」って、空とにらめっこしながら、やきもきしています。実際、2011年は台風が来たから中止したんです。さすがにへこみましたが、まぁ、自然の力には、かなわないので、僕自身は「しゃーないわな…」という感じで済ませていたんですよ。
 でも、出演者やお客さんたちはそうではなかったらしく、めちゃめちゃ残念がってくれはったようで…。というのも、昨年の2012年は、中止したことに対してのリベンジということで、例年は1日開催のところを2日開催にしたんですよ。そしたら出演者もお客さんもえらいこと喜んでくれはったんです。イベント当日に会場で勝手に「わーっ!」と盛り上がってくれはったので「あー、良かった良かった」と(笑)。
 それは全く予想してなかったから、そのときも、もちろんうれしかったんですけど、イベントが終わってからジワジワとうれしさがこみ上げてきて、正直、続けてきて良かったと思いました。これは中止になってなかったら絶対味わうことのない喜びなので…ま、台風のおかげで初めて気づかされた感情ですかね(笑)。

*5 RUSH BALL/大阪のイベント会社「GREENS」主催の野外ロックフェスティバル。1990年にスタートし、関西を代表する夏フェスとして知られている。当初は神戸などでおこなわれていたが、2005年から泉大津フェニックに会場を移し現在に至る。

ありがとうございました。

今年も開催!“OTODAMA’13〜音泉魂〜”

清水さんが「もうあかん、やめます」と言い続けて今年で9回目の開催。
9回=球界、ということで“球界推し”で頑張ります!?
今年も大御所からニューカマーまで!
出演は、アルカラ/OKAMOTO’S/奥田民生/クリープハイプ/SAKANAMON/
THE COLLECTORS/THE STARBEMS/東京カランコロン/モーモールルギャバン/
MONGOL800/0.8秒と衝撃。/レキシ/N’夙川BOYS/and more!
しかも、このイベントでしか観ることのできないスペシャルバンドも登場します!!
詳細はこちらをチェック!!!
http://www.shimizuonsen.com/otodama/13

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一番いい感じに伝わる “音楽”と“笑い”の野外フェスを目指して

清水 裕(Hiroshi Shimizu)

1968年大阪府豊中市生まれ。高校卒業後ライブハウスのアルバイトを経て、大阪のイベント会社「サウンドクリエーター」に入社。2004年に同社の事業部のひとつとして、ロックバンドにこだわったチーム“清水音泉”を立ち上げる。翌2005年、清水音泉主催の野外夏イベント「OTODAMA〜音泉魂」がスタート。ロック好きの心を掴み、リピーターも着実に獲得。ちなみにチーム名の“清水音泉”は、友人イベンター氏のアイデアと、立ち上げ当時のスタッフのゴリ押しにより決定。また “清水音泉”のロゴは、自身が敬愛する奥田民生氏の直筆によるもの。「釣りとバーキューは普通に好きです。イベントのバックヤードではバーベキュー係も担当しています!」(清水さん)