水中写真家であり、ダイビングインストラクターである城者定史さん。大阪の水辺再生など、水に関わる様々な分野で活躍されています。そんな城者さんに、水中写真や海の魅力、これからの水辺について伺いました。
感動のダイビング初体験
南伊勢の海の近くで育ったという、城者さん。子どものころ、おそとで遊ぶといえば、海で泳ぐということだったのでは?
「実は泳げなかったんです。水が嫌いで。小学校のプールの授業があるときは、玄関でうずくまって、お腹が痛い〜って(笑)。海で泳ぐより、浜辺で砂山を作って遊ぶほうが好きでしたね」。
それが今やダイビングインストラクターで、水中写真家。どんなきっかけで、ダイビングをはじめられたのでしょうか?
「海と海の生き物が好きだったんで、水族館の飼育員になろうと、専門学校に入ったんです。中学、高校ぐらいには素潜りで遊ぶようになっていたんですけど、ダイビングは学校の実習が最初。汚い、浅いプールだったんですけど、はじめてタンクを背負って腹ばいになったときに、水の中で呼吸ができるって、すっごい感動したんですよ。魚と一緒やって」。
それがダイビングとの、衝撃的な出会いでした。素潜りでは味わえない、水の中での開放感の虜になってしまいます。
それで、飼育員ではなくダイビングの道に進もうと決意されたのですね?
「感動しやすい性質なんで。もうこれしかないって。人にこの素晴らしさをもっと教えたいってなったんですね」。
写真で感動を伝えたい
水中写真をはじめられたのは?
「サイパンにいるときです。海がめっちゃきれいなんですよ。透明度が高くて。サンゴの中を熱帯魚が泳いでいて、竜宮城みたい。それを人に言いたいけど、元々しゃべるのが苦手だっただけに、言葉に限りがあるっていうか…『色とりどりの熱帯魚が…』とか、『幻想的な青い光が…』とか、それに限界を感じて。これは見せたほうが人に伝わりやすいって。教えてくれる人もいないし、今みたいに機材や本もなかったんで、最初は失敗続き(笑)」。
元々写真を趣味にされていたのでは?
「陸上で撮っていたわけではないんです。グロットっていう海底の洞窟があるんですけど、とにかく、そこに差し込む光が撮りたくて。雑誌に書いてあるシャッタースピードとか、しぼりとか真似したりして、いろいろ挑戦しているうちに、自分の写真が撮れてきたって感じでしたね」。
水中写真のどういうところに惹かれたのでしょう?
「写真っていうのは、光でフィルムに絵を描くイメージ。光をどういう風に捉えるかっていうのを、技術で調整していく。上手くできるようになってくると、海の青色を見たままの色に撮ることも、水色や藍色にすることもできる。その面白さにどんどんはまっていきましたね」。
最近は、デジタルカメラの発達や機材の小型化で、以前より手軽に水中写真に挑戦できるようになっています。いつものカメラに付属のケースさえ付ければ、あなたもパチリ、素敵な水中写真が撮れるかも。
呼吸する大阪湾へ
次は、学生たちと一緒に参加している「大阪湾再生プロジェクト」(注2)についてお伺いします。具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
「中心になっているのは、アマモを育てて増やしていく活動です。空きビンに、人工海水と砂をいれて、アマモのタネ(注3)を植えると1〜2ヶ月ほどで芽がでます。それを小学校とか地域の方たちに育ててもらって、われわれが海底に移植します」。
アマモというのは、浅瀬に自生する、海草の一種。水中に酸素を供給し、海の富栄養化の原因となるリンや窒素などを浄化してくれます。アマモが育っているということは、海が呼吸しているということ。魚の産卵場所にもなり、稚魚が育つので「海のゆりかご」と呼ばれています。
大阪湾のどの辺りに植えているのですか?
「今は、樽井にあるサザンビーチの横とせんなん里海公園(注3)の中ですね。もう5年ぐらい続けていて、樽井はもうアマモ場(アマモの群落。藻場(モバ)とも呼ばれる)ができたんですよ。イカが産卵していたり、稚魚が群れていたり、花が咲いたりしています。それに、貝塚市の二色浜で自生のアマモ場が見つかって。そこと同じ条件をつくってやれば、自然にアマモが広がっていくんじゃないかと、毎月アマモの成長や砂の移動、水質や生息する生物などの調査をしています」。
呼吸する大阪湾再生への、希望に満ちた発見です。
大阪湾は海じゃない?!
アマモの花の写真を見せていただいたのですが、しずくのような不思議な花ですね。
「実は、そのときに植えているダイバーのなかで、実際、花を見たことのある人がいなかったんです。写真では見ていたんですけど、自分たちの植えたアマモに、まさか花が咲いているとは思ってなくて。はじめ見たとき、花じゃないかなって思ったんですけど、確信がないので80%ぐらいしか喜べない。帰って調べて、やっぱり花や〜ってそこで、120%感動できた感じでした」。
とは言え、サイパンの美しい海を見てきた城者さんにとって、大阪湾に潜ることに抵抗はなかったのでしょうか?
「大阪湾を海と思ってなかったんですよ。わざわざ遠くの海にばかり行ってましたから。でも今はどこが面白いって、大阪湾ですね。想像以上に、いろいろな生き物がいるし。サイパンや沖縄の海に潜るつもりで大阪湾に行ったら驚きますけど、水の濁りや泥の質感を感じたり、空き缶の中に魚がいたりとか。大阪湾っていう前提で入ったら、楽しめると思うんですよね」。
現在、せんなん里海公園にダイビングスポットをつくろうという計画も進行中。大阪湾らしさを感じるダイビング、ちょっと興味深くないですか?
排水口は海への入り口
都市では特に、子どもが遊べるきれいな水辺が少なくなっていると感じます。それについては、どう思われますか?
「きれいな水が減っているからこそ、一番近くの水辺で遊べばいいと思います。きれいなところに行かなくても、遊べたら入っていって、ザリガニでもアメンボでもなんでもいいんです。水辺だけでなく、もっと身近なことをたくさん知って、挑戦してみることが大切だと思います」。
それには、大人がまずは意識を変えなくてはいけませんね。
「普段身近な水辺から遠ざかっていて、たまに遠くの海や川に連れて行ったのでは、子どもは自分の生活とつなげて考えることができないでしょう。アマモだって、植えて水質がすごく改善するかっていったらそうでもない。それより、自分が育てたアマモが大阪湾に植えられて、海水をきれいにしていると思ったら、みんな海に意識が向くじゃないですか。アマモが上手く育つにはどうしたらいいかって考えたら、生活廃水のこととか考える。いつも『排水口は海への入り口』って子どもたちに言ってるんです。その意識で私たち自身の生活を変えれば、海は変わると思います」。
自分の生活と身近な水辺をつなげて考える。排水口の向こうに海がある。
そう考えると水辺がぐっと近づきます。将来、泳げるぐらいきれいな大阪湾になるといいですよね。
「美しくなった大阪湾で遊んでいる人たちを見ながら、『昔は汚かったのに』って話すのが夢なんです。そう言いたいがために、今がんばっています」。
今日はいい天気だから、大阪湾に潜って、水中写真を撮ろうかな。そう言える未来のために、身近な水辺を楽しむ。まずはそこからはじめませんか?
- (注1)大阪コミュニケーションアート専門学校ECO
動物やペット、自然、農業に関する専門学校。ペットトリマーやドルフィントレーナー、アウトドアインストラクターなどを目指す学生たちが学んでいます。 - (注2)大阪湾再生プロジェクト
都市の広がりとともに、水質汚濁が進行してきた大阪湾。沿岸域の水生生物の生息域や海の自然浄化能力低下が著しく、海岸線のほとんどがコンクリートで覆われています。そんな現状を打開し、水環境の向上と沿岸域の自然空間・親水空間の回復、創造を目指して、進行しているプロジェクト。 - (注3)大阪湾再生プロジェクトでは、特定非営利活動法人アマモ種子バンクや、特定非営利活動法人教育技術振興会(CAN)で採取、保存された種から、アマモを育成しています。
- (注4)せんなん里海公園 公園noteで紹介した、大阪湾に面した大阪府最南端の府営公園。ビーチや人工磯浜など、海沿いならではの楽しみが詰まった公園です。