花や緑への慈しみ溢れるリースづくり

karatsu_1庭づくりのプロである唐津攝子さんは、ライフワークとして“ナチュラルリース”をつくられています。素材は、ホトケノザやペンペングサといったいわゆる雑草、モミジやイチョウといった落ち葉など、多くの人たちが見向きもしない、ゴミとして捨ててしまう花や緑。基本は、それらのうち1種類を使って、ひとつのシンプルなリースを制作。同業者からも「こんなリースをつくっている人は生まれてはじめてみた!」と驚かれるほどのオリジナリティです。最も驚くのは、素材からは予想がつかないほどのイキイキとした美しさ。そして、花や緑の命をまっとうさせてあげたいという唐津さんの慈しみ溢れる思い。リースをつくり続けて3年で、100個ほどつくってこられました。花や緑を思う原点、ナチュラルリースをつくるきっかけは何だったのでしょうか?庭づくりのことも含めて、唐津さんがナチュラルリースづくりに取り組むアトリエ兼菜園でお話をうかがいました。
(取材・文/小森利絵 編集/福田アイ)

 

最初にナチュラルリースの動画をご覧ください!(PCのみで視聴できます)
「もうひと花咲かせてあげたい! 〜 To let it bloom again ! 〜」

花や緑、天然素材、そして人間が集う空間づくり

 

-まずは、庭づくりのお仕事をされる上で、大切にされていることは何でしょうか?

私は主に庭の設計をしているのですが、花や緑、石やレンガなどの天然素材と人間・・・それらが共生する空間が、心地よくなればいいなあと思いながら、庭をつくっています。そのためには、設計者が実際に現場に出向き、現場を見るだけでなく作業にも関わることが大切と考えています。だから、私は現場では地下足袋をはいて作業をおこなっているんですよ。

 

やっぱり、現場でしか感じられないことや、わからないことってあるんです。例えば、木や草花、石、レンガなどの素材には持ち味があり、植える場所・置く場所、向きによっても表情が変わってきます。経験を積むほどに、それらの素材が「こことちゃうんや!僕は」と言っているのが、わかったりして。植え込んだ後でも「なんか違うなあ」というときは、掘り起こして移動させます。職人さんから「いい加減にしてくださいよ~」と言われることもある、職人泣かせな設計者ではあるのですが。karatsu_2

 

 

もちろん、その空間を一緒につくる職人さんたちとの人間関係も大切です。ただ設計するだけではなく、現場に行って動くからこそ、職人さんもついてきてくれるようになるし、私自身、現場やそこにいる職人さんから教わることも多くって、人生は常に勉強だなあと思います。つくる人たちの波長が円満になると、空間もいい仕上がりになるんですよね。

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唐津さんの設計による「園和の庭」

 

―今、私たちがいるこのアトリエ兼菜園も、実践の場なのでしょうか?

自分で花や緑を育ててみるという実践の場になっています。この花や緑が、どんなふうに成長して、どれくらい大きくなって、どんな花を咲かせて、どう枯れていくのか…。その一生を知ることはもちろん、花や緑を生かすためには、どうしたらいいのかも経験としてわかるようになってきた場所です。

 

庭の設計者のなかには、花や緑の一生を知らない人が意外と多いんですよ。それって、あかんと思うんです。例えば、イチョウ並木をつくっても、銀杏が落ちないように雄の木ばかり植えてしまう世の中じゃないですか。でも、それでは生態系がおかしくなってしまう。そういう自然の本来の姿を感じることも大切だと思うんですね。karatsu_4

 

私はこの場所でいろんなことを感じています。春から夏場なんて、夜の8時くらいまで過ごすこともあるんですよ。奥の方にある大きな木にカラスの巣を見つけて動物の知恵を知ったり、夕陽を見て自然の美しさを感じたり…。あるときは「鳥も食べてるんだから、食べられるんじゃないか!」って雑草をおひたしにして食べてみたり!ここで剪定した枝葉を堆肥にするために積み重ねておくと、そこが虫の棲みかになるんですよね。秋には鳴き声が聞こえてきて。そういうことを感じると、人間だけが生きやすい空間ではなくて、ほかの生き物たちが生きていられる空間をつくるのも、人間の役割だなあって思うんです。

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アトリエ兼菜園は、お友だちが訪れる空間にもなっています

 

子どものころ、おそとで花や緑と触れ合った体験が今に

 

―花や緑と向き合うお仕事に携わるきっかけは何ですか?

結婚して、育児をして、母の介護を経験して…母を天国に見送ったあと、「もっと自分らしく生きたい。笑顔で人生をまっとうしたい!次の世代に大切なものを残したい!」と思ったんです。「自分には何ができるやろう?」と考えたとき、フラワーアレンジメントやテーブルコーディネート、アロマなど、女性が仕事としてやりやすそうなことから勉強しました。フラワーアレンジメントについては、フランスまで学びに行きました。その学校は敷地内に里山や庭があって、そこから自分が好きな植物を採って来てフラワーアレンジメントをする課題が出たんです。なかには、近寄るだけでかゆくなる植物があって、「植物って、恐るべし…」と思いました。きれいでかわいい半面、「なめたらあかん」という部分もあると痛感して、「知らんことだらけやなぁ」って気付いて、「もっと花や緑と向き合いたい」と思ったんです。

 

 

―フラワーアレンジメントではなく、どうして庭のお仕事へ?

フラワーアレンジメントも好きなんですが、花や緑って、生け花にしろ、フラワーアレンジメントにしろ、最後は枯れていくじゃないですか。それがせつなくて…。一番きれいなときに生けるだけではなくて、植物が育つことに、そして育てることに魅力を感じたんです。

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店舗の前庭づくりをする唐津さん

 

私が生まれ育った大阪市中央区の島之内はコンクリートジャングルだったんですが、実家の2階に庭がありました。屋上緑化のはしりみたいなもんですよね。そこは私にとって癒しの場所でした。日本庭園風の木や灯篭があったり、母が植えたヘチマもあったりして。疲れたときや面白くないとき、そこにある石を洗うだけでも、時間を忘れるほど、面白かったんです。実家近くの路地には土が残っていて、そこに菊が毎年自然に生えていてくれたり、空き地に地域の人が勝手に野菜を育てたりもしていて、そういう風景を見て育ちました。

 

その時代を振り返ると、人の営みのそばには植物が必ずあり、人も植物も生き物であること、そして自然がもたらすパワーがいかに人にとって、なくてはならないものなのかを思います。また、花や緑には根っこがあって、地面に根を張って成長していくものだということを、改めて感じたんです。私たち人間も根っこの部分をしっかりと張り巡らすことが大事で、そうでないと大きくなれない。そう考えると人も植物も一緒なんですよね。だから、自分が手がけた花や緑が育っていくものであって欲しいと思い、庭の世界へ入りました。でも、庭の世界は思い描いていた通りではなかったんです。「自分らしく生きていきたい」と思ったのに、本来打ち込まなあかんものに打ち込めなかったり、長いものに巻かれたりする自分がいて、自分らしさを失っていきました。原点回帰したくてはじめたのが、花や緑と向き合うナチュラルリースづくりでした。

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2011年1月1日にナチュラルリースづくりを宣言!そのときつくられたのが写真のツルニチニチソウのリース(撮影/唐津攝子)

 

花や緑の一生を、人間の一生と重ね合わせて

 

―唐津さんがつくられているナチュラルリースとはどういったものですか?

“もうひと花咲かせてあげたい”をコンセプトに、花や緑の自然のままの姿を生かし、植物の魅力をひきだすリースです。きれいな花で飾りつけるのではなくて、剪定した枝葉や除草した草花など、人間が「捨てて当然」と思うものでつくります。買った素材はひとつもありません。すべて自分の菜園にあるものや出先で拾ったものなんです。

 

仕事で木を剪定すると、花や実、枝葉など、すべてがゴミになってしまうことに衝撃と共にせつなさを思うようになり…。命あるもん、命あったもんを、すぐさまゴミにしてしまうことが、「生き物の道として許されへん!」と思ったのがはじまりです。花も、緑も、「私は、まだまだきれいやのに!」と悲鳴を上げているように見えて、生かしてあげたいと思ったんです。karatsu_8

 

―どうして“リース”という手法を選んだのですか?

リースの基本のカタチは“円”です。そこには、空間があって、調和があって、巡り巡る輪廻の思想があるように思ったんです。円になってつながることで悪いことってないと思うんですよね。そこには幸せな空気があるというか、尊いもんがこの形に表現されているかなぁって。

 

実際に円をつくってみると、簡単なようで簡単ではないんですよね。円を描くのも意外と難しいですよね。始点と終点がないようにも見えて、実は存在する。それをどうつなげていくか…“生きること”と同じやなって思います。私たち人間も、生まれたからには死ぬけれど、また別の命となって生まれ…。花や緑なども生えてきた限り、朽ちていく、枯れていく…また生えてくることもあります。命も、時代も、何事も、巡り巡るんやなぁと思うんです。

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(左)ホトケノザ (中)冬枯れのイロハモミジ (右)ススキの穂 (撮影/唐津攝子)

 

―ナチュラルリースを作り続けて3年とうかがいましたが、そのなかで、どんなことが見えてきましたか?

老いたからこその、凛々しさ、美しさ、たくましさ、はかなげながらの魅力を感じるようになりました。若いころはどうしたってきれいなんですよ。老いるからこそ出るものもあって、それに気づける自分でありたいと思っています。人も植物も、花盛りのときもあれば、老いたるときもあり、「それが生きている証なんだ」「私たち人間も植物と同じで、自然のなかの一部なんだ」と再認識できました。だから植物と接していると気持ちが和み、心穏やかになることを実感しています。

 

私は、植物をリースにして、「ずっと飾っておきたい!残しておきたい!」というわけではなくて、この花の見ごろはいつで、こんなふうに枯れて、こんなふうに種をつけて・・・こんな一生を送るということを知ることが大切だと思っています。地球に生きている以上、自然のかわいらしさ、美しさ、楽しさを経験してなんぼやと思うんですよね。それを知っているからこそ、大切にしたいと思えるじゃないですか。

 

また、私たち大人が子どものころにもっと自然があったことを考えると、今の粗悪な環境を改善しないのは、自分たちさえ良ければいいという感覚にも似て、ある意味ズルいというか。明日を生きる子どもたちのためにも、これ以上の粗悪な環境にしてはいけないと痛感しています。シロツメグサの花冠をつくるといった自然のなかでの遊びが、大人だけの昔を懐かしむ思い出、つまり過去形とならずに、今の子どもたちの現在進行形にもなってほしいと私は願っているんです。だから、私たち大人が、植物と対峙することと、そうすることで植物がもたらすエネルギーを五感で感じることの大切さ、植物の持ち味や面白さ、そして植物が息をする空間の大切さを子どもたちに示してあげないといけないのではないでしょうか。だからこそ私は、庭づくりに関わる者として、家には土のある環境を重んじたいんです。小さな虫も、さえずる鳥たちも、そして私たち人間も、野菜や穀物を含めた植物がないと生きてはいけませんから。そんなことを、リース作りを通じて、みんなに提唱していき、そうやっていくことで、子どもたちに「けったいなリースを作る大阪のおばちゃん」と言われたら本望です。

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(左)ツルニチニチソウの花 (右)サクラの花がら (撮影/唐津攝子)

 

ありがとうございました。

 

wreathナチュラルリースづくりのポイント!

唐津さんがつくられるナチュラルリースはひとつひとつ素材が異なるので、つくり方も様々。例えば、写真のユキヤナギの花など長さのあるものは、くるくるっと巻いていくだけ。ススキの穂のリースは、穂を束ねて、ところどころを麻紐でくくります。紅葉のリースは、3~4枚ずつワイヤーでまとめて土台にさして、部分的に接着剤で固めます。甘夏の皮のリースは、オレンジピールをつくるみたいに細く切って、いったん乾燥させてから、土台に接着剤で固定していきます。 「きれいな円をつくろうとは思わずに、たまにイレギュラーな部分を取り入れたりします。何もかも、きちんとしていたら、窮屈になってしまうじゃないですか。ちょっと息が抜けるところをつくるのがポイントです」と唐津さん。karatsu_12

 

wreath2唐津さんのナチュラルリース

唐津さんは、リースを写真に撮って、下記のWebサイトで順次アップ。ひとつひとつ異なる表情のリースを見ることができます。カラスノエンドウ、キャベツの外葉など、「これも、リースにできるんだ!!」と感動します。その花や緑についての唐津さんの紹介文付です。

 

みんなの写真コミュニティサイト『フォト蔵』の唐津さんページ
http://photozou.jp/photo/list/1265940/3321230

 

 

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花や緑への慈しみ溢れるリースづくり

唐津 攝子(Setsuko Karatsu)

大阪市中央区生まれ。大阪府・豊中市在住。庭づくりを中心に、花と緑のある暮らし・空間づくりを提案する『Grass&Leaves』主宰。個人宅や店舗などの庭の設計の仕事を中心に、カルチャー教室のほか、ガーデニング関係の学校の講師も務める。ライフワークとして、剪定した枝葉や除草した草花などを使ったシンプルなナチュラルリースづくりに取り組み、『第5 回ビズ・ガーデン大賞《特別賞》(2012年)』を受賞。ナチュラルリースをまとめた本を出版する夢を持つ。おそとの魅力について質問すると、「おそとは無邪気になれる場所。無邪気って、邪気をなくすということじゃないですか。おそとで深呼吸をすることで身体のなかにある悪いもんが出ていくし、エネルギーを充電できます。お日さんの光を浴びて暮らすほうが、生活のリズムも快適になる気がします。おそとに出ないとわからない楽しさもあるし、暑いとか寒いとか、風の心地よさも体験できますよね。おそとにいても、かわいらしい花に見向きもせず、ゲームばかりしている子どもを見かけますが、せっかくだから、おそとでしか味わえない楽しさを感じてもらいたいですね」

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