デザインにも、人生にも、“外”のパワーをプラスしていきたい

「都市で生きていくためには自然が必要なのです」

日本を代表するグラフィックデザイナーであり、アートディレクターの水谷孝次さん。世界的な広告賞を次々と受賞し、デザイン業界の最前線を走ってきた水谷さんが、1999年よりスタートさせたのが「MERRY PROJECT」です。子どもから大人まで、世界中の人々の笑顔を水谷さん自らが撮影。その写真で展示やインスタレーションを発表し、笑顔のパワーで世界を明るく照らし出そうという壮大なプロジェクトです。この活動の中で水谷さんが改めて実感したという、“外”のパワーについてうかがいました。

  • (文:内田有佳 写真:水谷事務所)

太陽と空がある贅沢。それを教えてくれたのはL.A.でした

水谷さんが外の魅力に気づいたのはいつごろなのでしょうか?

僕は30年間くらいずっと東京で仕事をしてきました。デザイナーは一日中室内で作業することも珍しくありません。特に1990年代は、クラブ、お酒、タバコといった夜の遊びが流行っていました。僕はそうゆう場所へはあまり行かないほうだったけれど、でも毎日事務所でヘトヘトになるまで働いて、周りは不健康に夜遊んでいる。そんな社会に疑問を感じていたんです。そんなとき、仕事でL.A.を訪れて、暮らしや価値観の違いに衝撃を受けました。青い空、青い海、燦々と降り注ぐ太陽の光・・・。そして人々は、天気がいいと青空の下でご飯を食べたり、打ち合わせも屋外でしたりする。そんな環境で、何より自分がリラックスして、心身ともに元気になっていることに気づいたんです。

自然が側にないと、心まで疲れてしまうということでしょうか?

そう思います。この時期から、デザイナーも外に出なくては!と思いはじめました。そしてデザインの仕事以外に、「MERRY PROJECT」を立ち上げたり、事務所の屋上に菜園を作ったりしたんです。「MERRY PROJECT」では、世界中を旅しながら、いろいろな国で笑顔の写真を撮りました。そのときの撮影場所もやっぱり外です。どうしても室内でないと・・・というときはせめて窓を開ける(笑)。そのくらい、笑顔を引き出す為には外の空気が大切。明るい太陽と青空があれば、自然と最高の笑顔が出てくるんです。

世界25ヶ国で約3万人の笑顔を撮影してきた水谷さん。撮影場所のほとんどが外。青空と太陽は自然が作り出した最高のスタジオだと話す

外に出ないなんてもったいない!

屋上菜園を見せていただきました。六本木とは思えないくらい空が広かったです。

僕は屋上菜園を作るときに、自分でイメージ図を描いたんです。それは、ビルの5Fと7Fに事務所、屋上に菜園、そしてそのさらに上に太陽と空を描いたもの。これは、屋上を自分たちの空間にすれば、その上に広がる空や太陽も自分たちのものになるということ。撮影で言えば、太陽は天然のライト、空は天然のホリゾントということです。室内にいたら自分たちの空間は部屋のなかだけ。でも屋上に出れば、その上に広がる自然にふれられる。当たり前のことだけど、そのことに気づいている人が少ない。外というのは誰にでも平等に与えられた、最高の環境なんです。

ここでは地域の人を交えてイベントもおこなっているんですよね。

釣りを楽しむ「Fishing」という言葉があります。それなら農業を楽しむ「Farming」という言葉があってもいいじゃないか、と生まれたのが「Merry Farming」なんです。「知る」「育てる」「つながる」「食べる」という4つキーワードを軸に、一般の方に参加してもらうワークショップを開催しています。東京農業大学の教授を招いて勉強会をしたり、夏には田植え、秋にはお米の収穫もしました。麦や野菜も育てています。そして、ワークショップの最後には収穫した野菜でバーベキューをするなど、必ず「食べる」という要素を入れています。すると、参加者全員がさらに仲よくなるんですよ。

「Merry Farming」を始めて驚いたのは、子どもたちの学ぶ姿勢。大人よりも興味津々で、遊び半分ではなく、真剣に植物の育て方を勉強して帰っていくという

六本木ヒルズに迫る勢い(!?)でぐんぐんと成長する稲。
見晴らしもよく、屋上に登るだけでリフレッシュできます

昨年9月に日比谷パティオで開催した「Merry Farming Festa」はいかがでしたか?

この日は大型台風が来るかもしれない…とスタッフ一同心配していたのですが、僕たちの願いが通じたのか2日間とも見事な秋晴れ。天気に恵まれて、2日間で1万人以上の人が訪れてくださいました。会場の日比谷パティオでは、農業に関するワークショップやトークショーを開いたり、子どもたちにはダンボールをリユースして会場の中心に4mもあるカカシを作ってもらいました。みんなが農業を通じて笑顔になれた、素敵な瞬間でした。

子どもたちが作ったダンボールカカシ。300以上のカカシが集まり、会場を華やかに盛り上げました。さらにこのカカシは、「Merry Farming Festa」第2弾・第3弾として、港区立エコプラザや「土と平和の祭典2009」でも展示されました

自然や農業を通じて、もっと笑顔を、もっとMERRYな空気を

次なる挑戦は?

「MERRY PROJECT」や「Merry Farming」をもっともっと広めていきたい。そして、日本に笑顔をどんどん増やしたいと思っています。3月からは東京、名古屋、大阪と各所でトークショーやイベントを開催します。外の空気を感じて毎日生活すれば、自ずと気持ちも明るくなります。農業をしたり、自然と触れ合ったり、人と話したり・・・。MERRYな空気が流れるそんな場を、これからも作っていきたいですね。

ありがとうございました。

MERRY 2010 SPRING & SUMMER

■MERRY GO ROUND
2010/3/9(火)〜3月21日(日)
@JICA地球ひろば 1F 企画展示スペース(東京都・広尾)
MERRY PROJECT、JICA、日本赤十字社、それぞれの思いはひとつ「地球上に生きる人々を一人でも多く幸せにしたい」。
四川、スマトラ、ハイチなど、災害地への国際協力活動の取り組みと共に、被災地で強く生きる子どもたちの笑顔を展示します。
3月17日(水)18時半~20時にはクロストークセッションもおこなわれます。

■MERRY FROM WORLD 世界中の子どもたちの笑顔がいっぱい/水谷孝次展
2010/3/11(木)〜5/11(日)
@六本木 ホテルアイビス ミニギャラリー(東京都・六本木)
世界中の子どもたちの笑顔があなたをお出迎えします!

■MERRY AZABU HERB PROJECT
2010/3/20(土)
@MERRY GARDEN屋上農園(東京都六本木・麻布エリア)
季節ごとに植え付けや収穫、ハーブを使った料理教室やオリジナルグッズの作成などのイベントを介して、地域のコミュニケーションの環を広げようという取り組み。その第1弾は、いちごとハーブの植え付けです。

■Merry Bowwow Project
2010/4/1(木)~
@犬山城周辺エリア(愛知県犬山市)
「犬と人、人と人、人と街を笑顔で繋ぐコミュニティづくり」をテーマにおこなわれる町づくりのプロジェクトです。
いつもは静かなシャッター街や街のあちこちが、たくさんのカラフルな犬のアートでいっぱいになります。
犬山市ならではの発想で開催される、街を明るく変えるプロジェクトです。

■MERRY IN OSAKA
(予定)2010/4/28(水)~
@浪速区・中央エリア(大阪市)
世界中のMERRYな笑顔が大阪にやって来ます。子どもたちと一緒におこなうエコワークショップやクリーンアップなどを実施予定。詳細が決まり次第OSOTOでも紹介します!

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デザインにも、人生にも、“外”のパワーをプラスしていきたい

水谷孝次 (Koji Muzutani)

アートディレクター、グラフィックデザイナー。1951年名古屋市生まれ。日本デザインセンターを経て、83年に水谷事務所を設立。1982年の東京ADC賞を皮切りに、ブルーノ国際グラフィックデザインビエンナーレ銅賞・特別賞、コロラド国際ポスター招待展最高賞、など国内外の数々の賞を受賞。世界的に高く評価される。1999年より“笑顔”をキーワードとした「MERRY PROJECT 」をスタート。愛知万博や北京オリンピック開会式などでプロジェクトを展開する。2008年には「MERRY PROJECT」とエコを絡めた「Merry Garden!」や「Merry Farming」を主催。著書に『デザインが奇跡を起こす 「思い」を「カタチ」にする仕事術』(PHP研究所)がある。