アートは人をつないでいく!

文化戦略を地域の大きな重要資源と位置づけ、広いフィールドでコンサルティング活動を展開されている甲賀雅章さん。人々の絆を第一に考え、CI戦略からイベントプロデュースまでを精力的に手掛けられています。今年22年目を迎えた「大道芸ワールドカップin静岡」を育て上げ、現在も同大会のプロデューサーをつとめることでも知られている甲賀さんに、ご自身もクラウンパフォーマーである立場から、おそとの魅力や文化戦略における効果などについてお聞きしました。

静岡に根付いた「大道芸ワールドカップ」

―甲賀さんが大道芸を地域の活性化に役立てようと思われたきっかけは何だったのですか?

青春時代は寺山修司などの、いわゆるテント演劇全盛のころで、そういうアングラ劇団や舞踏のパフォーマンスにすごく興味があったんです。静岡で何かみんなが元気になるような事をやろうという事になって、静岡市民の性質である閉鎖性をどう打破しようかと考えたのがきっかけですね。静岡の人はシャイというか、プライドが高いというか、あまりチケットを買ってまで舞台芸術を観に行こうとしない。乗らない、踊らない、何にせよ、芸術に関しては保守的な地域だと言われ続けていましたからね。で、観ざるを得ない、聴かざるを得ない状況を作ってみたらどんな反応をするんだろうと思ったわけです。演劇やコンテンポラリーダンス、ジャズやレゲエのライブを街中の通りでやってみる。静岡野外文化祭を実験的に始めたのが、後に大道芸ワールドカップにつながっていくわけです。22年ずっとやって来た結果、もう静岡の人にとって欠かせないモノとなったんだという実感はありますね。それはもう日本人にとっての「祭り」なんですね。単発的なイベントではなく、やっと祭りになったんだなぁと最近思います。

人が繋がることで、化学反応が起こる「Ren」

―静岡県の山里にオープンされたギャラリーカフェ「Ren」は、甲賀さんのお仕事のなかでどういう位置づけをされているのですか?

2011年にオープンした「Ren」がある川根本町は、静岡県の山間の里で、いわゆる限界集落化が進むまちだったんです。いたるところに休耕農地があって、どんどん高齢化も進んでいる。そんな状況のなか、僕の仕事の本質、役割は何だろうと考えたとき、結局は人や場をつなげて行く事だと思ったんです。だったらそれをこの川根本町という所に自ら飛び込んでやってみようと思ったわけです。従来の行政発想とは違う、クリエイティブ発想で中山間地の問題を解決できないだろうかと考え、コンセプトは“連”で、そのまま「Ren」という名前の空間にしました。

山里のなかに突然異質なものが出現して、やはり今までに無かったつながりが出来上がって来ましたね。山間の人と街の人、地元の人と県外の人、農家の人とアーティストの人…、様々な“連”が出来上がって活性化につながっていったと思うんです。
そういう異質なモノをつなげる役目としてとても有効なのがアートだったんです。アートが触媒となって人と人を無理なくつなげていってくれるわけです。普遍的なアートの効果と、いわゆるよそ者としての僕という人間が、地元の人々をどんどんくっつけていく様な感じですね。そうすると自然に地域のコミュニティが活性化されてくる。そこに住む人々が、もう一度自分たちの町の良さに目を向けてくれて、誇りを持ち、自分たちのことを自ら良くしようと思い始めてくれたら、必ず蘇生すると僕は信じているんです。僕たちは、側にいてお手伝いをするだけです。でも、そこに居ないとダメだと思うんです。
今はそういう様々な試みの実験場として機能しているのが「Ren」という場の意味だと思っています。とても刺激的な仕事です。いや、仕事ではないですね。僕のライフワークであり、お務めだと思っています。

―「Ren」は陽が燦々と差し込む自然のなかにありますが、自然との共生に関してどうお考えですか?

最初に「Ren」を設計していくなかで、開放的な空間にしようというのがコンセプトでした。出来る限り外部との境界を排除したかった。屋内に居ても、おそとに居る感覚になる、気持ちのいい空間が出来ました。外を散歩している地元の人がふらっとカフェに入って来て、もう毎日やって来るようになるとかね。外に居るという感覚は、どんな人をも受け入れるという、入って来やすいという事ですよね。コミュニティの根本はそういう解放された感覚にあるような気がします。そしてそういう開放的な状態が許されるのも山里の魅力かもしれません。ガラスを割っちゃえば簡単に侵入できる構造だから都会では存在しえない。そういう部分も町との共生だと思っています。

ギャラリーとしては日光がバンバン入ってくるなんて珍しいんだと思います。アーティストによっては陽が差し込むのを嫌う人もいますが、それも素人である僕がやっちゃった空間だから仕方がない!(笑)と納得してもらうんです。
でもみんなそういう環境を気に入ってくれています。地元の人もアーティストの人も「Ren」によってつながって連なっていくんですよね。そういう化学反応は確実に起こっていますね。

自然光のたっぷり入り込むギャラリー&カフェ「Ren」では、おそとと内部の境界が極めて曖昧だと甲賀さんは語る

気負わないのがおそとの醍醐味

―今は様々な場面で、緑化や自然回帰という言葉が氾濫しているように感じるのですが、様々な地域の活性化に取り組んでこられた甲賀さんとしてこの風潮をどう捉えられていますか?

確かに良い試みだなぁというのもいくつかありますが、ほとんどがダメですね。巨大な人工の建造物にいくら緑を配置しても、それは自然ではないですよね。まだ日本の地域活性の幻想として、大きな商業施設をバーンと誘致して直接的な経済活性を目的としたものが多いですね。そういう時代はそろそろ終焉を迎えたんじゃないかと思います。それよりは四季折々の樹木を整備して、もっと長い目でその地域の活性化を目指していく時代になっていくと思います。そのためには自然の生態系を取り戻す環境整備が一番大事だと思っています。
実は「Ren」にはロフト兼シゴト場があって、時々ひとりで泊まりに行く事もあるんです。そこでいろんな事を考えるんですが、全然発想が違ってきます。自然にインスパイアされるというんでしょうか。とにかく人間にとって自然のなかに身を置くというのは、とても大切なことなんだと気づかされます。僕が、この土地を購入したのも、正直空気感みたいなものなんです。静岡市内から山を越えて車で一時間、あるところから突然空気が変わるのがわかるんです。自分の細胞がどんどん開いていくのがわかるんです。気持ちいいですよ。

今、日本中のあらゆる生態系が開発という名の下に破壊されていってますよね。これを何とか食い止めないと過疎だとか、休耕地の問題とかが解決しない状態になっていると思うんです。人間にとって必要な自然環境とそこに流れる空気を守るという事を真剣にやって行かないと取り返しのつかないことになると思っています。

―ご自身のプライベートでは、おそととの関係はどんなことをされていますか?

僕はアウトドアライフという言葉が大嫌いなんです。わざわざ野外で何かを無理してやってるような気がして…。でも、おそとにふらりと出るのはすごく好きですよ。自転車もよく乗りますし、テクテク歩いて景色を見たり。やはりおそとの醍醐味は気負わないのが一番じゃないですか。
スキューバダイビングも大好きで、南の島に行っては、毎日潜っていましたね。あの海のなかの感覚というのは不思議ですね。おそとなのか中なのかわからない。でも僕はおそとだと思うな。あれは人生観が変わったおそと体験のひとつですね。

アートには、人と人をつないで行くツールとしての可能性を感じるという甲賀さんも、新たな面白いモノを常に開拓し続けている

―最後に、これからの甲賀さんの向かって行くところはどこなのか教えて下さい

僕はね、ビジョンなき男なんですよ(笑)。昔は一所懸命に笑いを振りまこうと思っていたんですが、最近は僕の周囲に笑いが自然に起こる環境を創り続けたいなと思うようになりました。そういう自分になりたいし、またそういう場所をどんどん創っていきたいと思っています。
館長をお引き受けした大阪府立江之子島文化芸術センターも、そういう思いを実現できる拠点になってくれればいいと思っているんです。
大阪の面白い人がつながって、それがどんどん連なっていく場所になれば大成功だと思うんです。
そして様々なムーブメントが沸き起こってくる環境を整備するのが僕の今の仕事だと思っています。

ありがとうございました。

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甲賀雅章(Masaaki Kouga)

1951年静岡県生まれ。インテリア、ディスプレイのプロデュース&デザイン・編集業を経て、1991年株式会社シーアイセンターを設立。企業、商店街、地方自治体などの活性化に向けたコンサルティング事業を展開している。
1992年「大道芸ワールドカップin静岡」を立ち上げ、現在プロデューサー職。2011年静岡県の山間の里である川奈町にCafé&Gallery「Ren」をオープン。2012年大阪府立江之子島文化芸術センター館長に就任。2012年タイのバンコクで開催される「SIAM STREET FEST」のプロデューサーを務める。2013年大阪市阿倍野区民センター館長に就任。国際児童青少年芸術フェスティバルのプロデューサーに就任。