女性らしいセンスが光る外遊びを提案しているユニットnoyama。山をテーマにした作品を撮り続ける写真家、玄米菜食とアウトドア料理を得意とする料理研究家、登山やアウトドア雑誌の編集者、そして自然の素材を使い作品をつくる木工アーティストという、異なるフィールドで活躍する彼女たち。自然と向き合うなかで感じた想いやひらめきを持ち寄り、それぞれの得意分野を活かしてつくられる雑誌や本は評判を呼び、野外フェスなどのイベントにも活動の場を広げています。今回は、外遊びの楽しさを熟知したnoyamaのみなさんに、自然と親しむことの楽しさや、初心者におすすめの外遊びについて語っていただきました。
(文 田中智美 写真 ※以外はnoyama提供)
それぞれの土地の良さを知り、その良さを表現する。
―noyamaのみなさんはそれぞれ異なるお仕事に就いてらっしゃいますが、アウトドア歴はどれくらいですか?
髙橋さん
私は3~4年前に、アウトドア好きの同僚に誘われたのがきっかけで、外で過ごすことの面白さを感じるようになりまして。そのころに山戸さん、野川さんと仲良くなり、更にのめり込んでいきました。その流れで、仕事でも登山雑誌の編集をするようになったんです。外に行くようになって、生活も変わりましたね。それまでは、ストレス発散の仕方が買いものと深酒しかなかったんですよ(笑)。今は、夕方に打ち合わせが終わってから、運動がてら公園をぐるっと一周してみたり。外に行くことが、ストレスの発散になっています。
しみずさん
私は、子どものころからアウトドアが趣味の父親に連れられて、キャンプに行っていました。その後しばらく外遊びをしていなかったのですが、アウトドア好きの主人の影響で、また一緒に外で遊ぶようになったんです。もともと家具工房で木工をしていましたが、木工アーティストとして木や自然にあるものを使った作品をつくるようになったのは、小さいときに日常的に手を動かしてものをつくっていたことや、大人になって外で遊ぶ時間が増えたことが大きいですね。
山戸さん
うちも父親がアウトドア好きな人で、家族旅行といえばキャンプだったんです。それに、実家の庭では母が焚き火をしている傍らで、おままごと感覚で直火の調理をしたりもしていましたね(笑)。アウトドア料理をはじめたきっかけは、料理研究家の仕事をはじめて仲良くなった高橋さんから声をかけていただいたから。そのころに、noyamaの他のメンバーとも仲良くなりました。
野川さん
私は7年ほど前に、山登りをはじめたのがきっかけです。それまでは登山の経験がなかったのですが、単純に写真を撮りに山へ行ってみようと思ったのを機に、どんどんエスカレートして。今では、とどまるところを知らないアウトドア派という感じです。
雑誌や書籍などで活躍する野川さんは、ありのままの山の姿を捉える写真を撮り続けている。写真集に『山と鹿』『Above Below』『ポケットに山を』『WINTER MOUNTAIN』など
「Chip the Paint」の名で、木や葉、実などを使ったオブジェを制作しているしみずさん。彼女のつくるスツールなどのアイテムは、noyamaの外遊びでも大活躍
野菜を中心とした身体が喜ぶレシピを提案している山戸さん。自宅で開催している料理教室も人気。著書に『山戸家の野菜ごはん』『山戸家の野菜べんとう』『1バーナークッキング』『野菜がたくさん食べられる素朴おやつ』などがある
―noyamaの主な活動場所や、活動内容について教えてください。
髙橋さん
雑誌やイベントなどのお仕事では、企画の内容に合う場所で、自分たちが面白そうだと思うところに行くのですが、普段は、近場から遠方までさまざまなところに行っています。登山家のように「すごく高い山に登りたい」というだけではないし、週末に近くの山に行ってほっこり、というだけでもなく。近くの低山には低山なりの面白さがあり、遠出には何泊もする面白さがあるんです。だから、それぞれの場所の良さを知りに行く、という感じかもしれません。
しみずさん
お仕事の場合は、都心に比較的近い多摩川など、身近に自然を感じられる所を選ぶことが多いですね。
山戸さん
よく行く場所は、小金井公園や道志の森キャンプ場。どちらも火が使えるのでおすすめです。
野川さん
キャンプでは、セッティングをしてごはんができあがったら、ひたすら食べて飲んで…(笑)。また、その場所で楽しむことに加えて、そこから刺激を受けてしみずさんなら作品を、山戸さんだったら料理をつくる。noyamaは、自分たちの活動についての本を編集したり展示作品をつくるといったアウトプットをすることで完結するのが特徴なんです。
髙橋さん
山に行って終わり、ではなく、その良さをどう表現するのか。そこからつくりあげたものを、誰かが見て「いいな」と思ってくれたらうれしいし、noyamaの活動がそれぞれの仕事をより楽しくするためのライフワークでもあるんです。
―みなさんが、外遊びの際に心がけていることはどういったことでしょうか。
髙橋さん
私たちは「外とつながる」という言葉をよく使うのですが、これは自分中心につながるということではなく、自分たちは自然の一部だということなんです。だから、ゴミはなるべく出さないようにしよう、出かけた先にある道の駅などで食材を調達して土地のものを食べよう、といったことを心がけています。
しみずさん
例えば、アクの強いものを春に食べる、といったことを(山戸)ユカちゃんはよく「理にかなっている」と言うんです。旬のものを食べることも、自然と人間の身体のサイクルとのつながりだと思います。
山戸さん
“自然のなかでできた食べものを、自分の体内に入れて力をもらう”という自然とのつながりをなるべく意識しつつ、その土地のものや旬のものを取り入れるようにしていますね。そうした考えを普段から実践している方も多いと思うのですが、外で食べるとより季節を感じることができるのがいいんですよ。スーパーに行くといつでも同じものが並んでいたり、ビルのなかで働いている方は天気が変わったことも気が付かなかったりしますが、外に出ることは当たり前の変化に気付くきっかけになるんです。
「グリルチキンのサルサソースがけ」。ダッチオーブンやスキレットを使いこなす山戸さんは、炭火おこしもお手の物
「たっぷりレタスのサーモンフライサンド」。サーモンフライが主役かと思いきや、レタスをおいしくいただくためのサンドウィッチとか。なので、レタスをたっぷりとはさんでいます
noyamaの、冬の外ごはんの定番は、鍋!牡蠣を味噌漬けにし、鍋に具材をぎゅうぎゅうに詰め込み、魔法瓶にだしを入れて公園へ。鍋にだしをそそいで、バーナーで加熱すれば、家と同じように鍋が楽しめます。寒い分、さらにおいしいとか
頑なにならず柔軟に。まずは公園でピクニックから。
―noyamaのみなさんの外遊びは、野菜がたっぷりの料理や見た目もかわいい道具使いなど、女性らしい視点が魅力だと思います。アウトドアというと、力仕事だったり道具を揃えたり、とハードルの高いイメージがあるのですが、みなさんの提案は初心者でもすごく身近に感じられますね。
野川さん
自然は特別な体験ができる場所でありながら、わたしたちの生活とつながっている場所。つまり、「日常の延長としてアウトドアを捉えよう」という想いが根本にありますね。
髙橋さん
もちろん山登りのときには荷物を軽量化する必要がありますが、例えばピクニックに行くときは、わざわざピクニックセットを揃えなくても、家で使っている琺瑯(ホウロウ)に料理を入れていけばいいんですよ。キャンプのときは、調味料やお鍋は家のものをそのまま持っていきますし。
しみずさん
アウトドアには男性的な印象があると思うんですが、それってつくられたイメージなのかなという感じがしていて。古代には、女の人が火をおこして家事をしていたわけじゃないですか。だから、女性はそういうことが本質的にできるはずだと思うんです。
山戸さん
女性だけでアウトドアをしても、大変なことはないんですよ。慣れない男性がやるよりも、よっぽど手際もいいし(笑)。車から荷物を下ろして、リビングをセットして。おままごとの延長みたいな感じで楽しいんです。
髙橋さん
そうそう、慣れてしまえば大丈夫。でも、炭をおこす楽しさや炭火で焼いた料理の美味しさもいいのですが、初心者の方なら、外にカセットコンロを持ちだして調理してもいいと思うんです。
しみずさん
公園のような火を使ってはいけない場所には、魔法瓶にお湯だけ入れて紅茶やコーヒーをその場で入れたり、温かいスープを持って行ったりね。
髙橋さん
あまり頑なにならず、柔軟な気持ちで、外で温かいものを食べる喜びをたくさんの人に感じてみてもらいたいですね。それと、これから外遊びをはじめる方には、気軽に楽しめるピクニックがおすすめです。まずは、おいしいパンやジュース、お酒などを買って外で食べてみてください。
新鮮な野菜やハムをみんなでパンに挟んで食べれば、それだけで楽しい。マヨネーズを使わないオリジナルのタルタルソースもおしゃれで美味しそう
山戸さん
普段歩いている公園でも、地面に座ったり寝転んでみたりすると、いつもと違った風景に気づくことがあると思います。
高橋さん
そういえば以前、季節のよい時期にアウトドア経験のない友人と新宿御苑に行ったんです。ポカポカした芝生が広がる場所があったんですが、彼女は地面には座りたくないと言ってずっとベンチを探していて。そのときに、持っていたシートを芝生に敷いてあげたらすごく喜んで座ったんです。みなさんもぜひレジャーシートを持って、公園に遊びに行ってみてください!
まな板やフライパンなどの調理器具や食器も、普段使いのものをカゴに詰めこんで。手にも馴染んでいて使いやすく、お財布にも優しい
noyamaの野外リビングセット完成図。一度組み立ててしまえば、あとは家のキッチンとほとんど変わらぬ要領で調理ができる
―まずは肩肘張らず、ゆっくり外で過ごす時間を楽しんでもらうことが、一番ですよね。最後に、noyamaの今後の予定についてお聞かせください。
髙橋さん
雑誌での連載をまとめた山旅の本を、現在書籍にまとめています。低山やキャンプ、それと近場での外遊びの提案に、火のおこし方のような実践的な要素も入っていて、もちろんレシピも収録されています。アウトドアの初級者から中級者まで楽しんでもらえる内容になっているので、ぜひ読んでみてください。それとは別に、お酒とおつまみの本も発行予定です。
山戸さん
そちらは、自然や旬を意識したレシピを撮りおろしで収録します。noyamaは「アウトドアユニット」となっているんですけれど、もちろんアウトドアだけの人なんていなくて、街での生活があるじゃないですか。なので、アウトドアのメニューに限らず、けれど私たちらしさのある本にしたいなと思っています。
野川さん
4人で活動するには出版というかたちが一番表現しやすいので、今は本をつくることが中心ですね。そこにプラスして、それぞれの特色がでるワークショップなどもやらせていただいています。
野外フェス「Natural High!」には3年連続で出店。シングルバーナーでの料理教室やテントのフラッグをつくるワークショプをおこない、参加者に手を動かすことの楽しさや外遊びの思い出を形にする面白さを伝えている
山戸さん
基本的にはそれぞれの活動があるので、お互いが色々なところで刺激を受けてきて、面白いことができそうなタイミングで作品を出したいと思っています。他の3人に美味しいとか素敵と思ってもらえる料理を考えなくてはいけないのは、プレッシャーも大きいのですが、ある意味心地いいというか。「やったるで!」という気持ちになります(笑)。そういう仲間がいるのは、自分としてもありがたいですね。
野川さん
本当にそうなんですよね。これからも自然体で、長く続けていけたらいいなと思っています!
ありがとうございました。