「もっとおそとへ出て、命にふれてみよう」

もっとおそとへ出て、命にふれてみよう

今回は園芸家の柳生真吾さんにインタビュー。NHK「趣味の園芸」でご存知の方も多いのではないでしょうか。一方で柳生さんは、山梨県北杜市の八ヶ岳南麓で「八ヶ岳倶楽部」を運営しています。「八ヶ岳倶楽部」は、見事に手入れをされた雑木林にレストランやギャラリーが併設された自然豊かな憩いの場所。まさに“おそとの達人”柳生さんは、おそとをいったいどのように楽しんでいらっしゃるのでしょうか。

  • (文と写真:平松智恵)

生き物から学んだことを、子どもたちへ

柳生さんは東京生まれ、東京育ちですが、現在は八ヶ岳にお住まいですね。

住所を八ヶ岳に移したのは15年前、一番上の子どもが妻のおなかにできたのがきっかけでした。
それまでも八ヶ岳に通っていましたが、本格的に田舎に入っていくのは勇気が必要ですよね。「不便なところもある」、「飲みに行ったら、帰れない」なんて。そういうのを全部乗り越えて八ヶ岳に来たのは、その子が背中を押してくれたんですね。
子どもの存在っていうのはすごいです。僕らは子どものために全力で教えるし、120%何でもする。子どものためなら全部投げ出せる。でも、僕に教えられないことがいっぱいあると思ったんです。そもそも、子どもができたとき僕は若くて、親になる自信がなかったのもあります。そりゃあがんばるけど、僕以外の人やものからも子どもを育ててもらう必要があると思ったんですね。「暑い」「寒い」「気持ちいい」「痛い」とか、虫を捕まえた感激、生き物の鼓動、土の温度とか。そういうものは、すべておそとにあるのではないかと考えました。考えてみたら、自分はそういうおそとに育てられたっていう記憶がある。そしてそれを子どもに感じさせてあげるには、東京では難しいと思ったんです。家の中じゃない、もっと外に行かなきゃ。じゃあ、昔から縁のある八ヶ岳に引っ越しちゃおう!って。そのときは飲み屋さんのことは考えませんでしたね(笑)。でも、最高で、すごい決断でした。

柳生さん自身が子どものころに自然から学んだことは、どんなことだったのでしょう?

おじいさんの家での体験が僕の原点です。小さいころ、田舎のおじいさんの家にあずけられた記憶があるんです。親は「人聞きが悪いな~、そんなに長い間あずけてないだろう」って言うんですけど(笑)。でも僕には、そこでの記憶が色濃くある。きっとすごく楽しかったんでしょうね。
ある日、アメリカザリガニをたくさん捕って、おじいさんの家のステンレスの浴槽にいっぱい入れたんです。でも、元気がなくて、水を温めてあげたら元気になるんじゃないかと思って、お風呂を沸かしちゃったんです。当然、全滅しました。すごく悲しかったです。そして翌日また、おじいさんとザリガニ捕りに行きました。今度は3匹くらいしか捕らなかった。このとき捕ったザリガニは、10年くらい大切に飼いました。そんな経験を通して、「命にふれた」という実感がありましたね。
自然から学んだことはやはり命の大切さでしょうか。「命が大切」と心から思えるときって、命がなくなるときと、生まれるときですよね。ザリガニの一件や、可愛がっていた犬が死んだときに、ほんとうに強く思いました。だから、植物を育てることもそうだし、生き物も積極的に飼おうと思います。そういった経験があって、環境共生を実感できるんだと思います。環境共生については、難しい話をするより生き物を飼いましょう、と言いたいですね。

遊べるおそとで人は育つ

庭や公園という身近なおそとについてはどう思われますか?

おそとがあってこそ、家庭はできあがるんだと思います。ほら、家庭って、「家」と「庭」という文字でできているでしょ。つまり家のなかだけでは人は育たない。家庭には命とふれあえる最も身近な場所として、庭が必要なんだと思います。そして、せっかく庭があるのなら、やっぱり積極的に生き物を育てて欲しい。枯れちゃうから植えない、死んじゃうから飼わないっていうのは違うと思うんです。枯れてしまうまで、死んでしまうまでの時間を共に過ごすからこそ、涙が出たり、ショックを感じたり、逆に感動したりするんじゃないかな。確かに、おそとで遊んでいると、子どもって、けっこう残酷なことしますよね。トンボを捕って羽をちぎってみたり。でも、大変なことをしてしまった、と気づくときがくる。それが大事なんです。そういう経験をして、たくさんの命を背負っているという実感をもたないと、大人になってから人の痛みがわからないんじゃないかと思います。だから、「もっと外へ出て、命にふれてみようよ」と言いたい。これは僕の祈りです。
身近なおそとと言えば、かつては人と自然が濃厚に関わりあえる場所として、里山や裏山がありましたよね。そこで、“食べ物や、ほかの生き物とどうつきあっていくか”ということを学ぶことができた。でも、身近にそんな自然がなくなってしまった現代は、庭や公園にその役割が移ったと思います。庭や公園で、子どもが毎日たくさんの経験をして、いろいろなことを学んでくる。それを『ねえねえ!』って、元気に報告してくれる、そんな日本だといいなあ、と思います。

おそとの楽しみとして園芸が挙げられると思います。園芸についてはどう思われますか?

園芸は、植物と人が最も関わりあえる世界。水をやったり、根っこにさわったり、肥料をやったり、植えかえたり、植物と人との直接的なつきあいです。もちろん大きな木は簡単に植えかえられないけれど、園芸をすることで身近に自然を感じことができると思います。
先程も言いましたが、裏山や里山が少ないこんな時代だからこそ、庭や公園の果たす役割って、めちゃめちゃ大きいと思います。そして、おそとと人をつなぐ1つの手段が園芸なんです。だから、ガーデニングをする方へ僕がいつも言っているのは、「子どもが出られない庭はやめましょう」ってことです。「お庭に草花が植えてあるから踏まないで」なんて、花や木や土に自由にふれることができないなら、何のための庭なのかなと思います。

もっとおそとを楽しもう!

そんな柳生さんならではのおそとの楽しみ方を教えてください!

毎日違う楽しみがありますよ。それが日本のいいところですね。昨日と今日で全然違います。昨日つぼみだった花が、今日咲いたり。大雑把にわけると四季かもしれないけれど、365日の季節があります。1日1個の感動があるはずです。
そこで僕は、毎日の感動を残すため、毎日更新のブログをもう4年やっています。「何かないかな~」と楽しみを見つけようという姿勢でいれば、365日のトピックスがおそとにはありますよ。日本はそういう国です。いい国だと思います。たとえば毎日の通勤途中の道でも、何か見つかるはず。同じ場所での変化もきっとおもしろいですよ。

それと、おそとを“外”と意識せず、もっと気楽に出かけられるといいですね。外にはもちろんハードなこともあります。
まずは、ハードな外と家の中間で遊ぶのもいいでしょう。家の庭でテントをはって、子どもとキャンプをするとか。お風呂やトイレは家のなか、でも食べたり寝たりするのは外。最初からキャンプ場行くのはハードですよね。面倒なことも多いし、怖いと感じることがあるかも。でも庭でやれば、気軽にできるし、風とか音を感じることができてドキドキします。これはおすすめですよ。
あと、おそとに出る理由をどんどんつくるといいですね。たき火はもちろん、生き物を飼ったり、園芸をやったり。たとえばイタリア料理の好きな人なら、マイクロトマトやバジルを育てるといいかもしれません。自分で作ったトマトでトマトソースをつくる、そうするとそこに物語ができますね。バーベキューが大好きなら、テラスをつくるとか。何が好きかを考える。何でもそうだけど、好きなもの以外は続かないですものね。「したい」を見つける、仕掛けをつくる、のが大切。おそとに出たくなる理由をいっぱいつくりましょう。

最後に、これからの季節のおそとの楽しみに“焚き火”があります。
柳生さんは焚き火がお好きで、焚き火セットも考案されていますが、焚き火の魅力とは?

今は野焼きが禁止されているから、自由にたき火ができないですよね。そこで考えたのが移動式のたき火。実はもともとは鉄製の水鉢です。
たき火はいいですよ。火を囲んで会話やお茶を楽しんだりね。例えば、紅葉を眺めながらたき火を囲む。火があると、すこし暖かい恰好をするだけでおそとがリビングになります。たき火をするには、火の扱いをきちんと教える親がいないといけないですが、危険だからといって火の扱いも経験してみないと、人間の生き物としての能力がどんどん落ちる気がします。
七輪もおすすめなんですよ。ゆっくり焼けるから、のんびりできますよ。七輪は、バーベキューほどおおげさじゃないし、慌ただしくないところがいいですね。そうすると、会話や、星などの風景が主役になれるんです。ひとりでも大勢でものんびりできるのが七輪のいいところ。お酒を飲みながら、会話を楽しみながら、ね。

ありがとうございました。

柳生真吾

柳生さんが「僕の集大成」と言う著書『柳生真吾の雑木林はテーマパークだ!
知る、見る、感じる 里山の世界』をサイン入りで1名様にプレゼントします。
OSOTOの感想と公園でしてみたいこと、氏名、送付先住所、電話番号、年齢、職業を明記いただき、「柳生真吾さんのサイン本応募」とお書き添えの上、はがきかメールで下記までお申込下さい。
応募締切は2011/1/10(月)必着。尚、当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。

「柳生真吾さんのサイン本応募」
〒542-0081大阪市中央区南船場1-9-1-7F
OSOTO編集部宛
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「もっとおそとへ出て、命にふれてみよう」

柳生真吾 (Shingo Yagyu)

1968年東京生まれ。10歳のころから山梨県北杜市の八ヶ岳南麓に通い、父である俳優の柳生博と雑木林をつくりはじめる。玉川大学農学部卒業後、花の生産農家「タナベナーセリー」で3年間園芸を修行。1989年7月から雑木林を中心とした、ギャラリー&レストラン「八ヶ岳倶楽部」を運営する。2000年よりNHK「趣味の園芸」のメインキャスターを8年間務めた。現在はNHK「モリゾー・キッコロ 森へいこうよ!」のナビゲーターを務めるほか、ラジオ、講演、連載執筆など活動は多岐にわたる。著書は「柳生真吾の八ヶ岳だより」(NHK出版)、「柳生真吾の家族の里山園芸」(講談社)、「男のガーデニング入門」(角川書店)、「柳生真吾のガーデニングはじめの一歩」(家の光協会)、「柳生真吾の雑木林はテーマパークだ!」(日本経済新聞出版社)ほか。Webにてブログ「柳生真吾の八ヶ岳だより」を毎日更新中。

もっとおそとへ出て、命にふれてみよう

八ヶ岳倶楽部の小屋の屋根には、屋上緑化がされています。こんもりと、まるで小さな森のよう。

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よく手入れのされた雑木林。木に鳥用の巣箱もありました。どんな鳥がくるのかも楽しみです。

もっとおそとへ出て、命にふれてみよう

足もとに品のあるレンゲソウマの花が咲いていました。下から光を透かして見ると、とても幻想的

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森林を探索中にも気さくにお客さんに対応する柳生さん。「ヤマボウシの実、美味しいですよ」「ほんと!?」なんて場面も。

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「ここは林のなかでも一番空がよく見える広場。庭仕事をしているとき、休憩をする場所。みんなにこの空を見てほしいなあ、と思って」と柳生さん。写真は広場から空を眺めたところ。

もっとおそとへ出て、命にふれてみよう

木漏れ日がたくさん、光がところどころ地上に届き、とても心地よい雑木林です。

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石の上にヤマボウシの実が集められていました。ヤマボウシの実は、不思議と南国のフルーツの味。

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「この石すごいでしょ。最初少ししか出てなかったんだけど、こんなに大きいってだいぶ経ってから気づいたの」と石の上で腕を広げて見せてくれた柳生さん。

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森で育つ木々を手にとって話してくれる柳生さん。「これは和菓子をのせるのによく使われるムシカリ。形が上品でとてもきれいでしょ」。

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きれいな実がなっているのを発見した柳生さん。ブログ用のお写真を撮っているのでしょうか。

もっとおそとへ出て、命にふれてみよう

林のなかには、こんな木琴(?)も。色々な種類のバチがあり、それによって音も様々。ポクポク鳴らしていたら、人が集まってきました。

もっとおそとへ出て、命にふれてみよう

「ここは秘密基地のつもりで作ったんだけど、みんなに見せたくなっちゃって。秘密じゃなくなっちゃった(笑)」と柳生さん。
今は子どもたちがわいわい遊べる場所。イエローグリーンのおしゃれなハンモックが置いてありました。