「都市で生きていくためには自然が必要なのです」

「都市で生きていくためには自然が必要なのです」

サンフランシスコ近郊のバークレイというまちを拠点に、全米で公園をデザインしているスーザン・ゴルツマンさん。「都市生活には人工物だけでなく自然が必要」という信念に基づいて、子どもの遊び場、動物園、道路などを自然とふれあう場所として積極的にデザインしています。そんなスーザンさんが感じているおそとの魅力について語ってもらいました。

  • (文と写真:山崎亮)

道路や線路を細長い公園に!

アメリカと同じく、日本の都市はすでに大部分が開発し終わっています。新しく公園を整備する機会もかなり減っています。そんななか、公園をデザインする人は今後どんなことに注目していけばよいでしょうか。

私は今、都市の道路が面白いと思っています。「Complete Streets」という道路整備のプロジェクトに関わっているのですが、このプロジェクトでは、クルマよりも歩行者に重点を置いて道路のあり方を検討しています。歩行者に注目して道路を検討しはじめると、道路空間がこれまでとは違った、まったく新しいものになっていきます。道路が歩くためだけの場所ではなく、腰掛けたりおしゃべりしたりできる、広場のような場所になるのです。他にも「Green Street Movement」という活動をご存知ですか?道路に降った雨水を集めて、街路樹の水遣りに活用しようというプロジェクトです。ポートランド市で既に実施されているのですが、これも緑にあふれた、歩行者が過ごしやすい道路をつくる活動のひとつです。日本でも用賀プロムナードなど、せせらぎが流れ、座る場所が各所に用意されている、人のための優れた道路整備のプロジェクトがありますね。

先週、ニューヨークへ行ってきたのですが、西部の高架線路の上を細長い公園に変えていました。「High Line」というプロジェクトです。パリの「Promenade Plant」というプロジェクトも同様に高架線路を公園に変えたものですね。シンプルな発想ですが、とても優れたプロジェクトだと思います。廃線跡地を利用した、このふたつの事例のように、道路も細長い公園になる可能性があると思っています。ほとんどのアメリカの都市では、面積の約30%が道路として使われていますが、そのうちの少しでもクルマを排除して、公園ができれば面白いと思いませんか?

市民の議論から生まれた歩行者専用道路。
道の両端に、犬の散歩のために土の部分を残している
(バークレイ)

歩行者のための街路空間へと改変する計画
の断面図。緑が多く、歩道が広いのが特徴
(サクラメント)*

公共のベンチとショップが出している様々
な椅子が混ざり合って、憩いのスペースを
提供している
(バークレイ)

子どものための都市をつくる

道路のほかに、都市の屋外空間で興味を持っていることはありますか?

子どもに優しい都市をつくることですね。デンバーでは、18歳以下の子どもたちのための場所を、町中につくるプロジェクトに関わっています。うまく土地利用を調整すれば、200mごとに子どものための緑地を生み出すことができるのです。子どもが遊ぶための緑地はそんなに大きい必要はありません。遊ぶのに十分な広ささえ確保すれば、小さくてもそれぞれ特徴の違う遊び場が子どもたちの近くにある、ということが重要です。

それと、わたしたちは子どもに優しい都市をつくるための基準をつくろうとしています。子どもや家族に優しい都市をつくれば、子どもがクルマに乗れるくらいの年齢になっても、人々はそこに留まり続けるでしょう。クルマで遠くの自然を楽しみに行くよりも、自分のまちで遊べるほうが、よっぽど健康的で持続可能だと思いませんか?

スーザン氏が設計した子どもの遊び場。
船の遊具が子どもたちに「海」という大自然をイメージさせる
(サンタバーバラ)*

砂場からはクジラの口先だけが飛び出している。
子どもたちが、海にまつわる多様な物語をつくりだして遊ぶことができる公園
(サンタバーバラ)*

自然との相互作用がおそとの価値

屋外空間が持っている価値はいろいろあると思いますが、あなたが思う「おそとの価値」とは何ですか?

相互作用がある点です。わたしたちが自然に影響を与えたり、自然がわたしたちに影響を与えたりする。その点がとても重要だと思います。最近、建築物の内部空間をつくる仕事に関わることが増えています。そのときも、屋外空間のときと同じように、相互作用がある空間をつくろうと心がけています。環境的に考える、ということでしょうね。

屋外空間の重要性については、最近になって多くの人たちが認識しはじめているように思います。2005年に出版されたRichard Louvの『Last Child in the Woods(邦題:あなたの子どもには自然が足りない)』という本を読みましたか?著者はジャーナリストですが、彼がアメリカ中でおこなってきた「Civil & Nature Network」という活動について書いた本です。この活動は、子どもたちの脳の発達や健康的な成長には、自然との交流が大切である、ということを教えてくれます。今ではアメリカ中に広がっている活動ですね。わたしたちは、まさにこの考えに基づいて30年間活動してきました。最近では、多くの人たちが「おそとの価値」を知っています。人間がどのように学習するか、脳がどう発達するか、それには自然との相互作用が不可欠だということを理解しはじめたからでしょうね。

都市を暮らしやすくするのは「おそとの質」

都市にとって自然が大切な理由も、そのあたりにあるんですね。

真の意味での「自然とのふれあい」がなければ、健全な社会を築くことはできないと思います。いきいきとした都市をつくるためには、優れた屋外空間を設け、それをすべての建築物とつなぐ必要があります。都市を暮らしやすくするのは、建築物ではなく緑豊かな空間なのです。仕事や居住や医療を支える上で建築物は必要ですが、街路や公園はまた別の重要性を持っています。最近は、公園の芝生を過度に刈り込みすぎず、雑草などもそのまま放置しておく公園が少しずつ増えています。自然とふれあうということの意味が、少しずつ理解されているんだと思います。

その一方で、アメリカでは過度に安全を求める親が増えています。子どもの上をぐるぐる旋回して見張っているような「ヘリコプターママ」が増えているのです。公園の雑草が伸びていて危険だ、石があるとつまづくのではないか、と公園からどんどん自然を取り払おうとします。わたしたちは、こうした親の考え方を変えていくために何度もワークショップを開催しています。健全であるためには、汚れたり躓いたりすることも大切ですよね。人間だって世界の一部ですし、わたしたちはそうやって育ってきたんですから。

なるべく自然を放置する公園管理を
実践しているクリッシーフィールド
(サンフランシスコ)

緑豊かな都市をつくるために

あなた自身はおそとをどのように使いこなしていますか?

あまりうまく使いこなせていないかもしれません(笑)。でも、休みの日には街路を散歩しますね。歩きながらいろいろなものを見るのが好きなんです。市場で売り買いしている人たちを観察するのも楽しいですね。7月になると数週間休みを取ってアラスカへ行って、小さな船に乗ってクジラを見たり氷河を見たりします。それと、最近は動物園に関する仕事をしているのですが、動物園に行くのも好きですね。たとえ人工的につくられた自然だとしても、自然への入口として動物園は面白い場所だと思います。

わたしたちは、いくつかの子ども動物園に関するプロジェクトに関わってきました。子どもたち自身が動物の世話をする動物園です。子どもにとって動物というのは扱いが大変なものです。だからこそ、動物園の動物を世話することによって、徐々に子どもたちの態度が変わってくるのです。将来的には動物園の管理運営を外部組織に委託したいと考えています。そのときには、大人になった子どもたちが運営をサポートできるような体制にしたいと思っています。

動物の世話をする子ども。動物の世話
することで、自然とのふれあいを体験
している
(ハミルファミリー動物遊園)*

年長の子が年少の子に動物の特性を
解説する。これも成長への大きな
ステップ
(サンディエゴ動物園)

緑豊かな都市をつくるためには、公園をデザインするだけでは足りません。公園をマネジメントする主体について考えなければなりませんし、ワークショップによって親たちの意識を変えなければなりません。『OSOTO web』のように屋外空間の使いこなし方を紹介して、市民を啓発することも大切です。ぜひ、こうした取り組みを続けてください!

ありがとうございました。

ハミルファミリー動物遊園の平面図
(ブルックフィールド)*

The Inclusive City: Design Solutions for Buildings, Neighborhoods, And
Urban Spaces

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*の写真はすべて『The Inclusive City』より

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「都市で生きていくためには自然が必要なのです」

スーザン・ゴルツマン (Susan Goltsman)

環境デザイン事務所MIG代表。ランドスケープ・アーキテクト。造園学(ノースカロライナ州立大学)、環境心理学(サレー大学)、環境デザイン学(パーソンデザイン学校)の学位を持つ。
子どもの発達を促進するためのプログラムづくりや環境づくりをおこなっており、アメリカ動物園水族館協会賞、ユニバーサルデザインセンター賞、アメリカ建築家協会賞、アメリカ都市計画協会賞、アメリカ造園家協会賞、国立芸術基金賞など受賞も多い。編著書に『子どものための遊び環境』(鹿島出版会)、『The Inclusive City』など。