路上に寝泊まりして日本一周!体を張って生まれたアート

桜島
『SITE』より

「これまでの人生の3年くらい、路上で寝泊まりしていました」。開口一番、さらりとすごいことを言う、写真/美術家の津田隆志さん。東京都写真美術館で展示された、注目作『SITE』は50点の写真で構成され、そのすべてが、屋外に張られたテントの写真!公園や海辺、橋の下、雪で埋もれた駅舎の前……、さまざまな場所にぽつんと立つテント。自転車で日本をぐるりと一周し、路上に張ったテントに寝泊まりして制作されました。地元の人に「一晩、テントが張れる公共性の高い場所」を聞き、教えられた場に実際に泊まり、写真で記録する。本当にここで一晩過ごしたのかと思うと想像が広がりますが、同時に、パブリックな場にテントがあることへの、違和感も覚えます。「ここにテントを張っては、いけないんじゃないの?」「どうしてここに?」……、知らず知らずに浮かんでくるのは、違和感ゆえの排他的な考え。無意識のうちに捉われているルールや常識、思い込みを炙り出すことが、津田さんの狙い。公共の場はだれのもの?公園はみんなに開かれたものじゃないの?自身が路上に寝泊まりすることで感じた疑問が、作品を通して私たちに投げかけられます。
(取材・文/宮下亜紀 編集/福田アイ)

 

 

自然のなかで人は自由になる!?自然のなかで生きる人に心惹かれて

 

—そもそも写真との出会いはどんなものだったのですか?

初めは戦場カメラマンに憧れていたんです。写真について全く知らない10代のころで、ハードコアやタトゥーがかっこいいという延長で、憧れていたんです。高校卒業後、名古屋や東京の写真学校に通って、森山大道や荒木経惟といった写真家の存在を知り、写真の世界が思っていたより広いものなのだと気づきました。当時、豊田市美術館で見た、ソフィ・カルの『盲目の人々』という作品も衝撃的で。生まれつき盲目の人に聞いた「美しいと思うもの」を、テキストと写真で表現した作品ですが、こんな表現方法もあるのかと驚きました。写真をひとつの手段として、コンセプトのあるアートをつくる。今振り返れば、僕が取り組んでいるコンセプチュアルアートとの出会いだったと思います。

 

— ご自分の作品づくりはどんなふうにはじまっていったのですか?

ポートレイト(人物写真)を撮りはじめたのですが、ふつうに人を撮っていてもおもしろくない。撮る理由がいると思ったので、心に引っ掛かる人を探していたら、公園や河川敷にいる人がおもしろかったんです。ロープで木に登る洞窟探検家、食事用に魚を釣る人、法螺貝(ほらがい)の練習をする山伏とか……、みなさん、すごく自由だった。まわりに人がいないから思うままできるのか、自然がそうさせるのか。自然と人の関係に興味を持って、山伏や天狗、自然信仰やアイヌについても調べ、自然のなかで生きる人を撮りたくて、北海道を旅することにしたんです。
自然?
『TRANSIT-2005』より

 

 

予算はギリギリ、北海道に着いた時点で1万円しかなくて。初日の夜はホームレスの人にお世話になり、2日目の夜は仕方なく山道を歩いていたら車で通りがかった人が心配して、コンビニでノートを買ってくれて、ノートに行き先を書いて通る車に見せることでヒッチハイクができるようになり、寝袋で野宿をしながら北海道を半周しました。アイヌの聖地も行ったのですが、すっかり現代の生活で、イメージしていたものとはかけ離れていて。むしろ、自分のやっていることこそ、撮りたかった、自然のなかで生きる人だと思いました。
初めての野宿
ドライバー 秋田
ヒッチハイク
『TRANSIT-2005』より

 

 

— この経験が、作品『SITE』につながっていったのでしょうか?

この後も何度か同じように寝袋を抱えて旅をしたのですが、「今日どこで寝るか」をいつも考えていたんです。子どものころ、「世界はみんなのもの」と教えられた気がするのに、なぜどこでも自由に寝られないのか?そもそも公共ってなんだろう?そんな疑問が強まっていきました。

 

2009年、ホームレスの排除への疑問から、名古屋の街のなかにテントを張る映像作品を制作し、翌年の12月、『SITE』制作のため北海道から日本一周をスタートさせました。地元の人から「テントが張れる公共性の高い場所」を聞いて、寝泊まりし、写真で記録する。8ヶ月200ヶ所以上に泊まり、50枚の写真を一組にして、作品としました。
大阪にこん
大阪にこん02

 

 

極寒の北海道を皮切りに、命懸けの作品づくり

 

—なぜ冬の北海道から作品制作をスタートしたのですか?

都会的な生活から離れ、自然により近い状態で感覚をリセットし、より深く自分のなかの疑問と向き合うことから、『SITE』をはじめたかったんです。夏の北海道ではただの避暑ですから。

 

冬の北海道の外気温は、マイナス27℃。2,000円で一泊できましたが、もし2,000円なかったら命を奪われるかもしれない、それくらいの極寒です。登山用のマイナス35℃対応の寝袋を使い、穴を掘ってテントを張ります。冬の北海道は、除雪車も出動するから危ないんですよ。太陽が出る直前、突風が吹いて朝が来ると、それはもうほっとしますね。
屈斜路湖
日進駅
『SITE』より

 

 

だけど、寒さよりも闇よりも、本当に怖いのは人です。実は公園が一番怖い。だれでも入って来られますから、難癖をつけられることもありますし、地元の人にテントを張る場所を聞いて公園を教えられたときは、正直つらいですね。却って人が来ない何もない浜辺なんかの方がいい。最も泊まりやすいのは、道の駅です。
門司
浜小清水
四国の…?道の駅
『SITE』より

 

— 危険にさらされてまで泊まらず、テントの撮影だけをして済ませることもできたかもしれないですが、やはり自分で泊まることに意味があったということでしょうか?

そもそも資金がないからそこに泊まるしかない、というのもありますが(笑)、一晩、そこで過ごすという身の丈にあった方法で、疑問を立証し、表現したかったんです。通っていた写真学校の授業はあまり自分には合わなかったのですが、「カメラは体の一部だ、考えるな、撮れ!」という教えは染みついていて。作品『SITE』のように、体を張った表現方法は、その影響かもしれません。

 

体を張った作品から伝わってくるものとは

 

— 作品からどんなことを感じてもらいたいですか?

決して、寝泊まりできる公共の場を作ってほしいとか、路上に泊まることを勧めているわけではないんです。続いて取り組んだ作品『トゥルースリーパー』では、公園のベンチを撮影しているのですが、人に優しいベンチに見えて、実は横になれないように設計されているんです。無意識のうちに捉われている常識、世の中に張り巡らされた目に見えないルールなど、作品を見た人それぞれが何かを感じ取ってもらえたらと思います。
TS シャビ
tuda
『トゥルースリーパー』より

 

— 今後はどんな活動をしていきたいですか?

ロシアでの展示のオファーがあって、作品をどんなふうに感じてもらえるかが楽しみです。最近はアートでの町おこしが盛んですが、人が集まるみたいだからアートを持ってくるというような、安易さを懸念しています。B級グルメやゆるキャラのような一過性の盛り上がりでなく、美術の力があればその土地の独自性を生み出すことができると思う。美術と町がつながることで生まれる可能性を探ってみたいし、機会があれば積極的に取り組んでいきたいです。

 

— 津田さんの経験がどんなふうに生かされていくか、楽しみです。
ありがとうございました!

 

tentInformation

2014年秋、山形県の小さな山里で開催
『西根ナーレ2014 里の家の芸術祭』

津田隆志さんが運営を担当される小さな美術の祭典が、山形県長井市の小さな山里・西根地区を舞台に開催されます。「地域で育まれた文化・伝統、私たち自身の日々の暮らし、そこにある”美”を大切にしたい」という思いから、写真家が中心となり、西根の地で、地域のこと、伝統のこと、生きることについて見つめた作品を展示。そこにある豊かさを通して、地域を見つめる新たな視点や側面を提示されます。サイトへ随時アップされる情報を元に、ぜひ足をお運びください。

会期予定:2014/10/12(日)~11/3(月・祝)
会場予定:山形県長井市西根地区にある公民館、古代の丘公園など地区内施設
出展予定作家:清水裕貴、倉谷卓、石井保子、仲田絵美、生塩功、高木みゆ、船山裕紀、津田隆志、他

http://nishine.xyz/

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路上に寝泊まりして日本一周!体を張って生まれたアート

津田隆志 Takashi Tsuda

1983年、愛知県生まれ。写真/美術家として活動。2008〜11年、名古屋で映像を使ったインスタレーション作品をメインに制作、発表。11年より写 真を中心に、独自の視点から自然と人、都市との関わりを作品にし、12年、東京・新宿と大阪のニコンサロン「nikonjuna 21」にて『SITE』を発表。13〜14年、東京都写真美術館「日本の新進作家展vol.12」にて、『SITE』『トゥルースリーパー』出展。14 年、古くから文献に登場しながらいまだ未確認動物であるツチノコを考察するプロジェクト『幻のつくり方//How to make the UMA』をGallery NIWで発表。自身のなかから生まれ出る疑問や考えに基づき、写真に限らず、最適な表現方法を用いて、作品制作を続ける。
http://taka42da.com/