まちが持つ力をプロジェクションマッピングで伝えたい

「びわこビエンナーレ2010」/八幡堀祭 滋賀近江八幡 八幡堀 石垣への投影

建物、噴水、樹木、箱、靴…、あらゆる立体物のカタチに沿って芸術的な映像を投影する表現手法「プロジェクションマッピング」。世界中で注目を集めており、日本でも建物を使ったプロジェクションマッピングのイベントが盛り上がっています。そこで、京都の二条城、美術館、図書館、奈良の興福寺につながる階段、猿沢池などで投影をしたことがあり、関西のプロジェクションマッピング界にこの人アリ!と言われる映像作家の吉光清隆さんに話をお聞きしました。単なる楽しみを提供するだけではなく、開催地へあたたかい想いを込めて取り組まれています。その想いとは…
(文 福田アイ)

建物がストーリーとともに動く楽しみ

―いま、プロジェクションマッピングは、多くのメディアで新しいおそとの楽しみとして紹介されています。具体的にどのような表現手法でしょうか?

簡単にいうと、スクリーンとなっているモノ自体やその一部が動く、あるいは壊れるなど、まるで実際に変化しているように見える画像を投影する表現手法です。小さなグラスからお城などの大きな建物まで、基本的にはどんなモノにでも表現できます。全く別のものに見せることもありますよ。また、「プロジェクションマッピング」という言葉が3Dの用語から由来しているので、モノが浮いているかのように見せる3Dの映像もよくありますね。僕の場合は歴史ある建物に投影することが多いので、その建物の特徴となる装飾が目立つように、映像をあてることもあります。例えば、ある装飾が水道の蛇口っぽいなと思ったらそこから水を出してみたり、女の子の映像を作って、建物の装飾で遊ばせたり座らせてみたりしたこともあります。映像の作り方は、基本的にはすべての素材をパソコン上の映像ソフトに取り込んでコラージュしていきます。そのできた映像をプロジェクター1台、あるいは数台を使って建物へ投影します。

「壊す」「浮かせる」といったプロジェクションマッピングならではの王道の表現手法を活かした投影。「マチデコインターナショナル2012」(京都国際マンガミュージアム)
窓の魅力を活かした投影。透明な窓には映像が映るように色紙を張り付けるという作業も発生する。「岡崎ときあかり2012」(京都府立図書館)

―プロジェクションマッピングが認知されたことで、そのイベントの数がスタート当初より数倍も増えたと聞きました。いつからはじまった表現手法で、吉光さんはいつからはじめられましたか?そして最近の認知度の高さを実感されていますか?

「プロジェクションマッピング」という言葉は、2010年ころから使われだしたそうです。実はそれ以前から、僕をはじめ、世界中の映像作家やVJ(ビジュアルジョッキー)集団などが建物などへ同じような投影をおこなっていました。僕自身は空間を使って、生で味わえる面白いことをやっていきたいと考えているので、その一環として「アーキテクチャープロジェクション」と呼んで2006年から活動していました。イベントとしては、その年の9月に参加した京都の「三条あかり景色」がはじめてですね。喫茶店の外壁に六角形のタイルみたいなものがあったので、そのタイルひとつひとつを切り取って光らせたら面白いなと思って投影しました。2008年11月には、大阪市内にある昭和2年に建てられた芝川ビルで、この手法の認知度アップを目指してデモンストレーションをおこないました。その後、近隣の古いビルでおこなえればと期待していましたが、認知度が低すぎたのか、街なかでは道路から投影するための許可が取りにくいのか、未だ実現できていません。でも、当時と比べると、最近は認知されてきたことを実感しています。東京駅改装のオープニングや年末のイベント、また各地で年末のイルミネーションのイベントなどでおこなわれたこともあり、市民権を得たようです。会場で準備をしていると「ここでプロジェクションマッピングするの?」と通りすがりのお年寄りに聞かれることもありますからね。

2006年9月、吉光さんが建物へ初めてプロジェクションマッピングをおこなった京都のイベント「三条あかり景色」。六角形状のタイルの存在を際立たせている
2008年11月に開かれた大阪市内にある芝川ビルでのデモンストレーション。少女の動くシルエットがレリーフの存在に気付かせてくれる

「すごく愛着が湧いた」という感想がうれしい

―一言でプロジェクションマッピングといっても様々なタイプがあると思います。吉光さんは、何を意識し、どのようなテーマあるいは想いを持って作られていますか?

イベントに参加するときは、歴史のある土地や建物に投影することが多いので、由来や土地の言い伝えを調べて、その歩みを感じてもらえる映像や展開を考えて作っています。例えば、2012年9月開催の「ならアートナイト/なら国際映画祭」。投影した興福寺につながる階段は、悟りを開く段数52段を表現しているというものです。ですから、感じられる人だけ感じられるぐらいの「悟り」をテーマとするストーリーで構成しました。といっても、全くテーマとかストーリーがわからなくても、「見ていて楽しい」というのを基本にしています。また、興福寺の近くにある猿沢池では、そこの伝説を元につくったストーリーを噴水に投影しました。というように、プロジェクションマッピングを観た人が、その土地や建物の見え方がちょっとよい方に変わるぐらいがいいかなと僕は思っています。

建物自体に投影する場合は、細部をきれいに見せることや、独特な造りを強調することができます。映像を見た記憶を基にして昼間に同じ建物を見たときに、「こういう形をしてたんだ」と再発見し、建物が好きな人はもっと好きに、そこで働く人たちには、その良さに気づいてもらえたらいいですね。そして、建物の謂われや土地の言い伝えを知ってもらって、何か新しい発見をしてもらえれば。歴史はその場所の力になっているものだろうから、見た人に知ってもらいたいという気持ちがあります。だから、地元の人が、「この場所でこの話をしてくれてありがとう」とか「すごく愛着が湧いた」という感想を言ってくれたときは、かなりうれしかったですね。

2012年に開かれた「ならアートナイト/なら国際映画祭」では、猿沢池に造形作家が噴水を作り、それをウォータースクリーンにして投影した

住んでいる人と土地や建物をつなぐ役目だから

―プロジェクションマッピングはこれから日本中に広がり、おそとの楽しみが増えると予想します。今後の表現自体はどのようになっていくと考えられていますか?

プロジェクションマッピングがメジャーになってきたことで、ただ光っているだけだと満足してくれなくなってきて... 「わー、きれい」と感じる以上のものを求められています。お客さんのレベルがアップしていくから、僕らも中身を進化させていかなくてはいけないんですよね。だから、これからは、単なる投影ではなく、作品性をより持たせないと淘汰されていくでしょうね。建物を壊すように見せかけたとしても、「また壊れるんかぁ」と思われないために、壊れるまでのストーリーと、壊した後のストーリーを作って、壊すことを効果的に見せていかないと感動してもらえない。感動を呼ぶためには、単なる驚きだけではない、別の感情を湧きあがらせなければ。だから、立体物なら何にでもプロジェクションマッピングができるとはいえ、歴史ある建物でおこなうほうが、ストーリーを構成しやすく、やっているこちらも意味を見出しやすくて楽しめますね。

―今後、吉光さんのますますのご活躍を目にすることができそうですが、これから希望する活動の場はありますか?

 今まで幸い、名だたる建物でやらせていただいているのですが、今後も、日本にいるのだから日本ならではの寺社や城といった建物に投影したいですね。例えば、京都の金閣寺。光り輝くところへの投影は、より輝きが増すんですよ。金閣寺のように全てが金色の建物だと、どれくらいのことになるのかな、と考えるだけで興奮します。絶対に眩しいとは思いますけど(笑)。ほかには、京都の東寺や奈良の薬師寺、大阪城もやってみたいですね。また、最近では、冬の観光地の地域活性化としてプロジェクションマッピングをおこなうところが多くなっているので、そのお役に立つことができたらと思っています。
海外でも活性化の効果を期待されていて、以前、ヨーロッパのスロベニアで、過疎化したかつての炭鉱のまちを芸術で盛り上げるというイベントに参加したことがあります。これといって特徴のないマンションに投影したんですが、そこに住んでいる人たちが気軽に手伝ってくれたり、一緒にバーで飲んだりしたことでふれあいができ、そこから、なんらかの効果はあると感じましたね。最初はむすっとしていた人がイベントのあとはにこやかになっていたのをはじめ、みんなイキイキしたように感じましたから。日本の団地でもできたら、面白いかもしれません。

もし僕が地域を活性させるなら、夜になると明かりがつくイルミネーションと同じように、夜になるとプロジェクションマッピングされているというまちを作りたいですね。イベントではなく常設で、季節によって変化させて。これまでの経験から、僕の作り出すプロジェクションマッピングは、そこに住んでいる人と土地や建物をつなぐ役目なのかもしれない。だから、本当にそうあるために、単なる驚きを超えたプロジェクションマッピングの効果を考えてやっていければと思います。

ありがとうございました。

「びわこビエンナーレ2010」/八幡堀祭 滋賀近江八幡 八幡堀の石垣に投影
京の七夕「荘厳なるあかり2012」/京都・二条城・二の丸御殿
「岡崎ときあかり2012」/京都・岡崎・京都府立図書館
「マチデコインターナショナル2012」/京都・烏丸御池・京都国際マンガミュージアム

しあわせ回廊 なら琉璃絵
2013/02/08ー2013/02/14
http://www.rurie.jp

早春に夜間特別拝観を実施中の春日大社、東大寺、興福寺という奈良を代表する三社寺を幻想的な光の道でつなぎ、美しい瑠璃絵の世界にいざなう毎年恒例のイベント「しあわせ回廊 なら琉璃絵」。2013年は、春日大社の参道で吉光さんのプロジェクションマッピングを見ることができます。春日大社にまつわる雷の神様をモチーフに、抽象的なオブジェに投影する予定。この場所の持つ力を、光を通して感じてみてはいかがでしょうか?

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まちが持つ力をプロジェクションマッピングで伝えたい

吉光清隆(Yoshimitsu Kiyotaka)

1978年生。大阪芸術大学映像学科卒。映像制作会社を経て2005年から作家活動を開始。インスタレーションや舞台作品、パフォーマンスなど、メディアにとらわれない、空間を意識した映像作品制作を主にしている。2006年より建物への投影をはじめ、今はで関西の名だたるイベントでプロジェクションマッピングを披露。劇場内ではあるが、現在ロングラン上演中で、世界レベルのパフォーマーが言葉を使わず表現する日本初のエンターテイメント『ギア -GEAR-』でも、演出にプロジェクションマッピングを使って観客を感動させている。2013年3月20日〜24日に大阪のHEP HALLで開催されるプロジェクションマッピングとインタラクティブな技術を使った参加型イベント「youplay vol.0 スペースレンジャーの不思議な惑星」にも参加。
http://www.reco.tv