今やおそと遊びのひとつの代名詞となっているBBQですが、もっとBBQについて知りたい!楽しみたい!と思っている人はたくさんいるはず。そこで、日本のBBQの第一人者、日本バーベキュー協会会長の下城民夫さんにインタビュー。実は知らないことだらけだった、BBQの奥深い世界へ、ご案内しましょう。
まず下城さんにお聞きしたかったのが、「BBQって何ですか?」ということ。事前にいろいろな人に尋ねたところ、圧倒的に多かった答えが「外でする焼き肉」というもの。しかし、下城さん曰く「焼き肉はBBQではありません。BBQは、みんなで共に食べてコミュニケーションを育むもの。欧米では大きめのお肉をじっくり焼いてから切り分けて、お皿に盛りつけ、みんなで一斉に食べます」とのこと。確かに焼き肉は、どうしても焼くことに注意がいってしまいます。お肉が焦げないか、みんなに行き渡っているか気になって、コミュニケーションどころではないかも。
そうなると、何を食べるのかも気になります。「BBQレシピの醍醐味はワクワクすることと考えています。私たちはバーニャカウダやサムギョプサル、パエリアなど、幅広く楽しんでいます」と下城さん。バーニャカウダはオリーブオイルにアンチョビとみじん切りのにんにくを入れて温めたソースを、グリル野菜に付けて食べるもの。野菜をたくさん食べることができるので女性に嬉しいメニューです。更に、ダッチオーブンを使った煮込み料理なども、最近人気だそう。
“BBQ=焼き肉”と思いがちですが、“BBQはみんなで食べるコミュニケーション”と考えれば、レシピの幅もぐんと広がります。
下城さんによると「日本のBBQは遅れている」のだそう。なんだかちょっとショックですが、多くの人が“BBQ=焼き肉”と考えていてレシピに広がりがない、身近にBBQを気軽に楽しめる場所が少ないなど環境も整備されていない、そしてマナーにも問題があるというのがその理由。それでは、海外の進んだBBQ事情はどうなっているのでしょう?
BBQの先進国であるオーストラリアでは、電気式やコイン式のグリルが整備されたBBQパークがあり、スイッチひとつですぐにはじめられて、後片付けも簡単。たくさんの人が入れ替わり立ち代わり利用していると言います。環境が整っているだけではなく、利用者の意識も高く、利用後は必ず元の状態に戻すというルールがきちんと守られているそう。残念ながら日本では、公園や河原などにBBQの残骸と思われるたくさんのゴミが落ちていて、決してマナーが良いとは言えないのが現状。確かにまだまだ発展途上ですね。
そして、スウェーデンでは、1年のうち、そう長くは屋外で過ごせないので、常設のグリルは設置されていないのだとか。その代わりに普及しているのがディスポーザブルグリル。ただの使い捨てグリルではなく、簡単に分解できて、リサイクルされるのだそう。手軽なだけではなく、環境にも配慮した道具が愛用されていることもBBQ先進国ならではです。
オーストラリアの電気式グリル。ボタンを押すと上部の鉄板が熱くなります。網ではなく鉄板なので、掃除も簡単そう…
スウェーデン式ディスポーザブルグリル。使い終わったら「鉄」「アルミ」「灰」に分別してリサイクル!簡単、便利で環境に優しい優れものです。スウェーデンの公園には専用のダストBOXが設置されているのでとっても便利
「では、日本もBBQ先進国の仲間入りをするにはどうすればいいのでしょう?」と下城さんに聞いてみると「私たちは、“自分に、相手に、社会に、環境に優しいスマートBBQ”をおすすめしています」とのお答え。“スマートBBQ”とは、自然の摂理を活かした無理のない火のおこし方、準備の際のひと手間や後片づけ、ゴミの分別、道具の手入れまで、BBQの全てをスマートにおこなうものだそうです。欧米では主流の、厚切りのお肉がおいしく焼けることもスマートBBQの知識のひとつ。そのための炭の配置“スリーゾーンファイア”を教えていただきました。今まで炭を均等に敷き並べていたという方、必見です。
1. 炭は上に重ねるとその分火力が増します。その性質を利用して、炭を積み上げた“強火ゾーン”、炭を平らにならした“中火ゾーン”、炭を置かない“弱火ゾーン”の3つのゾーンに分けて炭を配置します。
2. 分厚いお肉は“強火ゾーン”で焼き目を付けて、“中火ゾーン”で中までじっくり火を通し、そして“弱火ゾーン”で保温します。
“スマートBBQ”を広めるために日本バーベキュー協会で取り組んでいるのが、“BBQ検定”。“スマートBBQ”の知識や技術を持った人をBBQインストラクター、BBQマスターに認定しています。炭をおこすのが不安な方も、腕に覚えがある方も、もっとスマートにBBQを楽しむために、挑戦してみてはいかがでしょう?(開催予定は
日本バーベキュー協会のホームページをご覧ください)
「BBQは被災時にも役立ちます」と下城さん。意外に感じる人もいるかもしれませんが、“BBQができる”ことは、災害時などにとても役に立つことなのです。公園にBBQ設備があれば、普段は楽しみのために、災害時は食事を煮炊きでき、季節によっては暖をとることもできます。更に、防災訓練にBBQを加えると、地域の人と普段あまり顔を合わせないという人も、楽しみながらご近所づきあいができます。設備も人も“BBQができる”ことは、楽しいだけではなく、とても意味深いことなのです。
最近はソーラーパネルを利用した電気式グリルもあり、下城さんは「このグリルを公園に設置することで、震災など、いざというときに防災公園になる!」と熱く語ってくれました。日本ならではの新しいBBQとして、今後に期待大です。
今回下城さんには、BBQの本来の楽しみ方やレシピ、世界のBBQ、実用的な面など、意外な面を教えていただきました。私たちも、もうそろそろBBQの次の一歩を踏み出してもいいころかもしれません。次の休日には、ただ楽しいだけではなく、自分も人も環境も幸せにできるBBQ、実現してみませんか?
1960年生まれ。1992年にアウトドア&自然専門クリエイティブプロダクション「アウトドア情報センター」設立。2006年にBBQ文化の発展・啓蒙を目指して「日本バーベキュー協会」を設立。日本のBBQ文化の発展に尽力している。