自分に正直に生きれば、何があっても大丈夫。

気持ちや考え方が「しっかり安定していて、危なげなく、落ち着いている」ことを言い表す慣用句「足が地に着く」。漠然とした不安を感じている人が多い今の世の中では、足が地に着く状態でいることが必要ではないでしょうか。そのためには、どうすればよいかと思い悩む事に時間を費やす人も多いことでしょう。そこで、OSOTOは、ひらめきました。実際に、多くの時間、足を大地に着けて身体を動かして過ごすと、気持ちや考え方も足が地に着くようになるのではないか。この考えを確かめるために、ここ数年の間に仕事の場を畑や山へ移した方々を訪ね、気持ちや考え方の変化を中心にお聴きすることにしました。また、足が地に着いている人の身体のことや足を地に着ける方法を「からだの専門家」にお聴きします。
(撮影/伊東俊介 編集・文/福田アイ 協力/林業女子会@京都


自分に正直に生きれば、何があっても大丈夫。

“林業女子”という言葉を目にする機会が増えました。山の手入れが早急に必要とされるも人材不足が深刻となっている林業界において、人数は少ないものの林業の将来を担う若い女性に話題が集まっているのです。そこで、今回は、希少な林業女子にお話を伺いたくなり、林業に興味のある女性たちが林業を盛り上げたいと活動する「林業女子会@京都」にご協力をお願いしました。ご紹介いただいたのは、京都府南丹市にある園部町森林組合で働く渋谷菜津子(しぶやなつこ)さんです。

 渋谷さんは林業女子が話題になる以前の2010年、23歳のときに中途で採用されました。夢や憧れだけで就職し「こんなはずではなかった」と辞めていく人が多くいるなかで、林業界も注目する勤続5年。林業を続けさせているのは、「山が好き」という気持ちなのだそうです。「神戸市内で育ったものの都会の人ごみなどが苦手で。都会にあるものよりも、落ち葉や木の実などにワクワクすることから、子どものころから近くの六甲山へよく登っていました」

 つまり、根っからの山好き。もしかして元々足が地に着いている人かもしれないと思いながらお話を伺っていると、やはりそのように感じました。というのも、取材前、取材では働き出してからの気持ちや考え方の変化についてお聴きしたいと伝えたときには「あると思うので考えておきます」とのことでしたが、改めてお聴きすると、考えた末に、「うーん、わからない。でも、視力が1.0から1.5に上がりました」と。植樹から豊かな山に育つまでには百年もかかると言います。そんな百年先の山を見つめようとする気持ちが眼力を強くしたのでしょうか?!視力の回復はある意味素晴らしい変化です。でもこの時点で、視力以外に変化を感じないということで、やはり元々足が地に着く考え方が備わった人なのかもしれないと考え、就職後の変化ではなく、生い立ちからお聴きすることにしました。

 そうすると、子どものころから世の中や友だちの流れに合わせることなく、自分の気持ちや感覚に正直に従って生きてこられたことがわかりました。林業の仕事に就いたこともそのひとつ。「昔から山で仕事がしたかったんです。高2のときに上高地へ家族旅行をしたとき、たまたま山の測量をする人に出会って、私も山でそんな仕事をしたい。こんなふうに自然のなかで仕事ができたらいいなと。だから林業科のある短大へ入りました」

 短大卒業後は、もうひとつの夢であった地球一周の船旅「ピースボート」に参加するため、すぐに就職せずに、フリーターに。アルバイトをいくつも掛け持ちしてお金を貯め、3ケ月かけて船旅を体験しました。しかし、「自分のなかで何かが変わることを期待していったんですけど、あんまり変わらなかったですね」と、ここでも動じず、その後、就職活動へ。「仕事先を見つけるのに時間がかかりました。女性だからですかね、面接しても、相手にされないというか。森林組合や林業の事業体を20ほど回って、もうアカンかなと何回も思いました」

 それでも就職活動を続けた結果、希望が叶いました。揺るぎない芯の強さが導いたといえそうです。その強さの元は、「それしかないと思うからですね。あとは、なんとかなるやろうと子どものころから思っているので」。「なんとかなる」というのは、根拠のない自信のようにも思えますが、真の自信には根拠は要らないと言われていることから、渋谷さんは自分自身や未来を信じているように感じました。そのため、「本当にその仕事に就けるのか」というような明確な不安はあっても、漠然とした不安はなかったそうです。

「やることでデメリットはあるかもしれませんが、それでもやりたい。もしもやりたいことをやらずにずっと別のことをすると、後悔すると思うんです。例えば、親に反対されて辞めたとしたら、あのときやりたかったのに、あとで親を責めてしまうような気がするんです。そんなふうに誰かや何かのせいにしないためにも、やりたいことはやりたいですし、失敗にしろ、成功にしろ、やってみないとわからないことは多いと思うので、やらずにクヨクヨするよりも、やってしまって結果が出てから判断する方が早いかな、と。やっぱり、自分の責任でやったほうが、納得できますから」

 自分が納得するために気持ちを優先させると、日本では“変わり者”と呼ばれることがあり、渋谷さんも実際そうだったようです。「まわりの人に『変やなぁ』とよく言われましたね。そう言われても、何も思わない。『別に、変でも、いいや』と思っています。気にしてません」

 マイペースでのんびり行動し、おっとりと話す渋谷さんですが、お話を伺えば伺うほど、雰囲気からは想像し難い強さ、つまり何があっても大丈夫という強さを秘めている人だとわかりました。自分の気持ちや感覚に正直に従って自分が納得する生き方をしているからこそ生まれる芯であり、その強さ。それがあるからこそ、しっかり安定感がある。まさに足が地に着く生き方をしている人です。

 園部町森林組合に就職した渋谷さんは、最初の2年で、現場である山の作業を学びました。「現場の作業はキツいと言われますが、私はあんまり思わなくて。やりたかった仕事に就けたから嬉しいばっかりでした。毎日自然に触れられますし、もちろん作業中は気を抜くと命に関わる大きな事故につながるので、緊張感がありピリピリしているんですが、山に居るだけで気持ち良くて、こころが穏やかになるから、就職した当初は満足度が高かったですね」

 現在、渋谷さんは、2010年から同組合が取り組む「集約化作業」の交渉を任されています。多数の持ち主がいる山を取りまとめて、効率よく一体的に間伐を実施して持ち主に負担なく収益を上げるための作業です。それをおこなうために、持ち主ひとりひとりに提案して契約します。そのため現場の作業は減りました。「林業の現場以外の面も見えてきて、楽しみだけではないなとだんだんわかってきたところです。だからといって、辞めようと思ったことはなくて、今は、どこまでできれば一人前として認めてもらえるかなという多少の不安を持ちつつも、ずっと続けていこうと思っています」

自分に正直に生きれば、何があっても大丈夫。

渋谷菜津子さん

1987年生まれ。神戸市出身。林業について短大で学んだ後、フリーターを経て、2010年に園部町森林組合に就職。と同時に園部町に暮らすことで、希望どおりの住環境も実現。「このまちは何にもなくて落ち着きます。休日は、このあたりから出ないですね。犬を飼っているんですが、ドッグカフェへ行ったり、ドッグランへ行ったりして、それで満足です」

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同コンテンツのvol.17「がんばらないで健やかに」にご登場いただき、心と身体がワンセットであることを教えて下さった「からだクリエイトきらくかん」代表の奥谷まゆみさん。心理療法と整体を学んだのち、身体を観察することから、ひとりひとりに合うエクササイズを見出すという独自の整体法を考案した整体師です。そこで、今回もご登場いただき、慣用句「足が地に着く」と実際の足との関連をお聴きすることにしました。すると、やはり、心と身体は繋がっているとのこと。又、「心を変えたいなら、身体を変えた方が早い」という考えを持たれているので、実際の足が地に着くようになるエクササイズや身体の使い方を教えていただきました。

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  • 農家の生きる極意は前向きな諦め

最初にお話を伺ったのは、大阪府の最北端に位置する能勢町で2009年から農業をはじめた植田歩さんと、2012年から同町で農業をはじめた今堀淳二さんです。農家の基本的な生活は、太陽が昇れば仕事をはじめ、太陽が沈めば仕事を終えます。そのため、一日の仕事時間は、夏場が長く、冬場は短くなりますが、来る日も来る日も、畑という大地に足を着けて働きます。そんなふうに季節や天気を含めた自然を感じながら生きるようになられたお二人のお話をお聴きしていると、やはり、気持ちや考え方も足が地に着いてくるのだと確信しました。そう思えるキーワードは、意外かもしれませんが、「諦め」。彼らのような生き方をするからこそ必要となる前向きな諦めです。いったい何を諦めたのでしょうか。

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