大阪のミナミを流れる道頓堀川。全国的にも有名なこの川を、手漕ぎボートで行ったり来たり。遊びながら身近な水環境を知る、新しい水辺の取り組み“エコボートプロジェクト”を紹介します。
眠い目をこすりながら、人々が道頓堀にかかる橋を足早に通り過ぎていくなか、静かな川面を進む、一艘の赤いボート。ボートを包む楽しい活気が、気だるい空気漂う朝の街に、鮮やかな色彩をもたらします。
水をテーマに写真展やスクールを開催しているアクアスタジオの奥谷さんが、このプロジェクトの発案者。なぜボートで道頓堀川を?「元々海や川で遊ぶのが好きで行ってたんだけど、そんなに環境について考えたりすることはなかったんです。でも、スキューバで海に潜りだしてからかな、海底のゴミが気になって…」。自身の体験から、水辺が抱えるゴミや水質汚染などの問題に興味を持った奥谷さん。「エコとはいっても楽しくやりたい。楽しくないと続かないから」と、考えたのがこのプロジェクトなのです。
使用するのは、空気で膨らませる10人乗りのゴム製 “Eボート”。持ち運べるくらいのサイズにまでたためて、膨らませるのにかかる時間が約10分という優れもの。誰でも安全に、簡単に楽しむことができるため、全国各地の水辺のイベントなどで使用されています。EボートのEには環境(Environment)や交流(Exchange)など色々な意味があるのですが、奥谷さんはあえて“エコボート”と呼んでいます。環境問題に真面目に取り組むことも大切だけれど、楽しむことで見えてくる水辺の現状をまずは知ってもらいたい、という思いが込められています。
水面に浮かべたボートに乗り込むと、思った以上に安定した乗り心地。パドルで漕ぎ出すと、すいすいと静かに水面をすべりだします。道頓堀は両端を水門によって流量が調整されているので、普段はあまり流れもなく安定した水位を保っているとのこと。大波にもまれる、なんてことはありませんが、時折観光船とすれ違うときは波に乗って揺れることも。でも大丈夫。「波がきても、波に乗ってしまうので水しぶきを浴びることなく、ひっくり返るなんてこともありません」と奥谷さん。
最初はこわごわ漕いでいたパドルも、慣れてくるにしたがって大胆に動かせるようになり、スピードをあげて爽快にボートは進みます。ひと掻きするごとにボラの子どもの群れがそばを泳いでいくのが見えたり、コイが跳ねたり、カメが甲羅干しをしていたり。こんなに多くの生き物がいるんだ、とびっくり。
さらに驚いたのは、多くの歩行者や自動車が行き交う御堂筋の橋の下を通るとき。そこには地上の喧騒とは別世界のような静寂が広がっていました。橋の裏側の天井が近いのも、非日常感を際立たせるとても特別な瞬間。橋の下をくぐって見上げた街はいつもと同じ風景なのに、ちょっとした冒険気分。橋を歩く人から「どこから来たの?」なんて話しかけられると随分遠くから旅してきたような気分になるのが不思議です。
これからの季節は夜のクルーズもおすすめ。水上から見ると、地上の街の光と、水面に映った光がとてもきらびやかで幻想的だといいます。誕生日記念のバースデークルーズや、大阪旅行の記念に、素敵な思い出になること間違いなしです。
道頓堀をめぐった後、参加した人に感想を聞きました。「今まで道頓堀は汚いイメージで、遠くから見ているだけだったけど、生き物もいて、水中のパドルの先も見えたし、川に近づけた気がする。」
楽しみながら水辺の環境に興味をもってくれたようです。
「普段そんなに川をじっくり見る機会なんてないと思う。でも川も見られることで美しくなる。もっと多くの人に身近な水辺に興味を持ってもらいたいですね」という奥谷さん。知っているはずの水辺の新しい魅力に気づかせてくれる、エコな水辺の楽しみがまたひとつ増えました。
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