甲斐順一さん

爽やかな気候で過ごしやすくなる秋には、新しいことをはじめたいという意欲が高まるのではないでしょうか。そこでおすすめしたいのが、空にまつわる趣味。空気が澄む秋は、空のベストシーズンといわれています。空が高く感じられると、雲の様々な形がはっきりと見え、星は輝きを増します。抜けるような青い空を、鳥のように飛びたいと望む人も多いことでしょう。そんな秋の空を楽しむことから、新しい趣味をはじめてみませんか?もちろん秋に限らず、空は季節ごとに異なる表情を見せます。また、見上げれば、いつも雄大です。そんな空に魅了され、趣味として楽しんでいる方や趣味が高じてプロとして活躍する方にご登場いただき、対象への想い、趣味としての魅力、楽しみ方、そして一人で味わう喜びや仲間と共有する喜びなどをお聴きします。それぞれの方が夢中になるポイントを知って、あなたなりの空を手に入れてみませんか?
(撮影/沖本明 編集・文/福田アイ)


雲の景色のなかに車や人といった点景をワンポイントに入れ、ドラマ性のある雲の世界「雲の情景」を撮影する写真家の甲斐順一さん。「雲の情景」を専門に撮影して約20年となり、その間に趣味が高じてプロに転身されました。現在は、いつでも雲を撮影できるように、カメラを離さず、シャッターチャンスを狙う毎日を送られています。そこで、雲とともに生活する甲斐さんだからこそ熟知している雲の魅力、甲斐さんなりの楽しみ方、そして写真を楽しむコツや撮影のコツを教えていただきました。また、「雲の情景」の公式サイトにアップされている写真からOSOTOが選んだベストショットもご紹介します。甲斐さん曰く、「難しく考える必要はなく、直感で撮れる写真なので、はじめられたらおもしろいですよ」

同じ雲は二度となく、同じ写真も絶対にない。

雲は季節ごとにいろんな表情を出しますが、いつ出るかわからないところがドラマチック。その形は一瞬で変わってしまい、同じ形は二度とない、そんな切なさや一期一会の感動を残したいなと思います。

それに、毎回新しい発見があります。これまで雲の写真が嫌いだという人にお会いしたことはないのですが、それはおそらく、誰もが子どものころ素直に純粋な気持ちで、雲に対して「いいな」と思った感動が残っているからじゃないかな、と。そういう原体験があるから、私は、新鮮な雲の情景に出会うと、当時の感動を引き出して、作品として残したいという気持ちになるのかもしれないと感じています。

また、被写体としてみると、何よりも一番撮りやすい素材でしょうね。形がユニークだし、色もきれいでダイナミックだから、雲だけでも絵になる。だから、誰が撮っても良い写真になるし、誰でも撮れるというのが素晴らしい。しかも必ず違う写真になるし、同じ雲でも十人十色で、それぞれの狙い方ができる。そこがやっぱり非常におもしろい被写体と言えるポイントですね。

甲斐順一さん

「雲の情景」は記憶をコレクションできる。

雲だけだと観測写真のようで少し味気ない感じがするので、私は、ワンポイントとして前景や点景を入れることによって、ドラマ性を出すようにしています。いつもの景色が雲という素材によって新しい世界となる瞬間を撮影しているというか…。

それらをデジタルではなくポジフィルムで撮影していますが、その理由は、コレクションするためです。私の場合は、ものづくりが好きということもあって、プリントしたものが作品ではなくて、ポジフィルムをカットして一枚一枚をケースに入れて、ファイルを作ることが最終表現。だからそのファイルのコレクション自体が作品です。何かあれば持って逃げることができる大事なショットだけのファイルがあるほどです。

このコレクションを長い間作っていると、雲の情景は記録であり、記憶になるというおもしろさを感じています。雲だけだったら記録。景色が入ることによって、記憶にもなる。印象的な写真は覚えていますが、フィルムを見返すことによって、そのとき撮影したシチュエーションや、そのころの自分を思い出すことも結構あります。そういう点がポジフィルムの良さのひとつですね。

他人の意見をある程度活かすことが大事。

写真は自分だけで楽しむのもいいですけど、他人に見せることを前提で撮るというのもありですよね。他人の意見をもらうと、自分の癖に気付かせてもらったりするので、次に活かせます。

私の場合は個展を開いたりしますが、そんなときに作家としての思い入れとお客さんの率直な感想とに”ズレ”を感じることがあります。ものすごく苦労して撮ったからといって、そのことをアピールしても思ったほどの評価はもらえず、すっと見上げてすっと撮っただけの写真がお客さんにすごくウケが良いということもあります。評価に左右され過ぎてはいけないけれど、ある程度は人の意見を受け入れ、客観視することも大事かなと思いますね。

甲斐順一さん

いろんな撮り方のパターンがあるからおもしろい。

雲の情景として狙うポイントは、ケース・バイ・ケース。形がおもしろかったり、ダイナミックな雲が出たら、それに合いそうな前景を探しますが、逆に何かおもしろい前景を見つけた場合などは、雲がやって来るのを待ったりもします。さらには、見慣れた景色のなかで雲との構図を探すこともありますし、通りがかりに偶然見つけて撮影する場合もあります。

できあがった写真を見たときに、雲が魚や鳥といった動物などに見えてきたり、また雲によって観覧車が宇宙ステーションなどに見立てられることがあったりします。そういった撮影時のイメージを超えることを体験できるのは感動的です。そのような会心作を撮るには、常に感覚のアンテナを張っておいて、「お!」と思ったらその場ですぐ狙うことが大事ですね。

甲斐順一さん

写真家・甲斐順一さんの公式サイトでは、1993年からの「雲の情景」の写真を閲覧することができます。今回はここ10年の秋の写真のなかから、OSOTOが選んだベストショットをご紹介しました。他にも四季折々、様々な雲の情景が掲載されていますので、みなさんもお好きな写真を見つけ、撮影の参考にしてみてください。

「雲の情景」公式サイト
http://kumonojokei.o.oo7.jp

甲斐順一さん

甲斐順一さん

1963年生まれ。地元福岡で「雲の情景」を専門に撮影する写真家。撮影のきっかけは、デザイン学校での写真実習。1986年、雲のなかに飛行機が飛んでいる写真が撮れたことで、雲だけでは出せない広がりにおもしろさを見出し、雲の写真を趣味として撮りはじめる。1993年に「雲の情景」として撮影を開始、1998年に「趣味としての写真を卒業して、本格的な雲の撮影をはじめよう」とサラリーマンから写真家に転身。ポジフィルムにこだわり、雲の情景写真は20年でフィルム2000本以上に及ぶ。撮影時は「すぐに停まれて、すっと撮れる」ので自転車を愛用。最近困っていることは、魅力ある雲が出にくくなっていること。「雲の情景を撮りはじめて10年経ったあたりから、大気汚染のせいか雲の表情がどんどん乏しくなっています。ショックですね。以前は毎日のように、おもしろい雲が出ていたのに、ここ2、3年は特にひどい状況です。積極的な環境対策をしないと、ますます魅力ある雲が出にくくなる…そんな気がしています」。2012年より世界中から雲の写真が集まるイギリスのサイト「The Cloud Appreciation Society」(和名:雲を愛でる会)に作品を応募し、採用されている。個展は2年に1度のペースで開催。

「雲の情景ブログ」月~金曜日、1日1枚更新中
http://kumonojokei.cocolog-nifty.com


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