草が青み、花が咲き誇り、山が笑う春は、いろいろな色が溢れ出します。この季節に、おそとの色について、これまで以上に知って、見て、楽しんでみませんか?そこで今回は、おそとの色をテーマに活動されている方や研究されている方に、それぞれが触れられている色のこと、その色の魅力や楽しみ方、さらには色の不思議についてお話を伺いました。奥深い色の世界を知ると、目に映る色が増え、彩り豊かな毎日を過ごすことができて、気持ちも豊かになっていくはずです。さあ、新たな世界へ足を踏み出しましょう!
(撮影/沖本明 編集・文/福田アイ)
おそとを見渡したとき、心を動かす色を放っているものといえば、植物。一日に一度は、誰もが目にするのではないでしょうか。といっても、普段は何気なく見て通り過ぎるだけ。その色について深く語れる人はどれほどいるのでしょう。そこで、植物が持つ色と日々向き合う草木染作家さんに詳しく教えてもらうことにしました。数多くいらっしゃるなかから、OSOTOがお願いしたのは、兵庫県の南西部、相生市の山間部で「草木染工房ちゃー美流(びる)」を開かれている徳力弥生(とくりき・やよい)さん。1990年より、「自然」をテーマに、工房から半径200m圏内に生息する植物を摘み、糸を染め、ニット作品を制作されている草木染兼編み物作家さんです。
作品の大半は、その時々に工房から見た景色の色を編んだもの。自分の好きな色で編むというよりも、おそとに合わせた色で編むことに喜びを見出されています。「長年、ひたすら同じことを繰り返してきたんですが、最近すごい発見をしたんです」という新たな報告も含め、草木染による色の世界へ案内していただきます。
徳力さんは、工房を立ち上げる前から編み物教室を主宰。様々なものを編み続けているなか、自然が織りなす色をした材料をいつも選んで買っていることに気づいたそうです。そこで、草木染教室へ通ったところ、「難しいイメージはすぐになくなりました。うちのまわりには染める材料がたっくさんある。染める場所もある。大きな鍋もある。できる!と、1ケ月後には工房を作り、無理なくすっと仕事のできる体制ができあがっていました」
草木染とは、植物の花・葉・実・茎・皮・根などから色素を煮出し、染料にして繊維を染めること。最も発色が良い時期は、ほとんどの植物が花の咲く前。そのときに摘んで染めます。染める際には、色素の繊維への定着と発色を良くするためにアルミや鉄、銅といった金属系の物質などで媒染という作業をおこないます。染まる色は、その媒染剤によって、大きく変わり、煮出した植物の色に似ることはあっても、そのままの色が染まることはほとんどありません。どんな色に染まるかは、染めてからのお楽しみ。
「例えば、ビワやキウイの場合は、葉を染めると、実の色のように染まります。クリは、葉も花もイガも同じ色に染まります。鉄媒染だとグレー、銅媒染だと茶色が出るんですよ。それぞれ見た目は違っても持っているものが同じなんでしょうか。いずれにしても何色に染まるかは染めてみないとわかりませんが、元の植物を見れば、どれも納得できる色が出ています。
そんななかでの私の染めのルールは、植物の見たままの色にできるだけ合わせること。その方が一番きれいかなと思っているんです。あとは、細かいことは考えなくてよいということ。植物の量が少なかったら、少ないなりの薄い色が出るし、多ければ多いほど濃く染まるし。まだ色を出す時期じゃなかったのかなというときもあります。といっても、失敗はないというか。認めないというか。どうやっても、同じ色はないんです。微妙にちょっとずつ違うんよね。煮出す水の量でも違うし、去年と同じ色が今年も出るとは限らないし。最初は、ちゃんと計ってデータ化してノートに付けてたんですが、絶対同じ色にできないとわかった時点で、邪魔くさくなって(笑)。同じではないからショックとかはなく、いつもと違う色が出たときは、嬉しいんですよね。ほんと、どの色も良いから」
徳力さんの草木染は、多くの材料が身近にあることから、とても自由で大胆です。4月に入り、ツクシやヨモギやタンポポが出て来ると、その年の草木染がスタート。秋が終わるころまで草木染と編み物の多忙な日々が続きます。「春の大型連休ごろになると染めるものがいっぱいあって。それから10月までは、手あたり次第(笑)。出てきたものは全部染めます。まわりにある草木はすべて染の材料。何でも染まるのよ」
この色が欲しいからと、決まった植物を摘んで染めるという方法ではなく、この植物と決めてその色だけを楽しむという方法でもない。この季節を、この自然を余すことなく色にしておきたいという意志のようなものと、ひたすら染めることが好きという気持ちが合わさって徳力さんの色はできあがる。そんななかから、たくさんの発見があったと言います。
「春に出てくる草はとってもやわらかいでしょ。だから、染まる色もやわらか。やっぱり、春っぽいんです。見たらすぐわかりますし、春に見るとしっくりきます。夏の色は、さわやか。秋には、植物って枯れていきますよね。ということは、枯れた色しか出ないんです。色を残そうとする、物悲しい感じが出ています。そして冬は、草がなくなって、色もだんだんなくなっていくということですね。染めるものがなくなります。
おもしろいのは、例えばヨモギは、春に芽を出し、秋まで成長する植物で、その時々で色を出すと、何種類も染められるんですが、春なら淡い色に、秋ならしっとりと落ち着いた色になります。そしてヨモギに限らずなんですが、春に落ち着いた色を出したくても、どうやっても出ない。違う季節の色は出せないんですよね。
それと、最近の夏は暑いでしょ。以前は、お盆を境に秋の色が出ていたんですが、最近は暑すぎて次への準備に入るのが早いからか、7月には秋の色が出るという現象が起こっているんですよね。ほんと、草木で染めた色を見ていると、発見することはいっぱいあります」
このように多くの発見ができるほど染め続け、その結果たくさんの色が出せたからこそ、徳力さん独自の、工房から見た“景色の色”を編む作品はできあがったと言えます。というのも、創作のスタイルが、夕焼けなどの心に響いた景色を写真に収め、その景色を心のなかでひとつひとつ色に分け、色に合う草木染の糸を選び、景色を想いながら素直に色を重ねて編むというものだからです。
「ここの色にはこの糸が合うなとひとつひとつ合わせていったら、微妙な色もぜーんぶ揃うんです。しかも、春の景色は、春に摘んで染めた糸ばかりで揃う。夕焼けの空の色とかも、全部揃うんですが、6月の夕焼けは、6月の植物で染めた糸でないと出せないんです。ということは、逆に考えると、景色の色がぜーんぶ糸に染まるということ!それがここ最近の大きな発見なんです。目の前の景色にあった色が本当に染まるっていうのがすごいなと。世の中にある色は、草木が全部持っているのかなあと。そうやって編んだものは、理想的な配色で、きれいなあと思うんですよね」
ニットとなったおそとの色を見てみると、自然の風景を直接見ているかのように、確かに目にも心にもすっと馴染みます。徳力さんが撮影した写真の景色と比較しても違和感なし。穏やかな気持ちになります。とはいえ、草木が持つ色には、掴めそうで掴めないことがなんと多いのでしょう。自然の不思議な力が宿っているからでしょうか。そんなことを思いながら工房に居続けると、気づけば、草木染の色に心を掴まれていました。
徳力弥生さん
1953年生まれ。兵庫県相生市在住。20歳のころに編み物教室へ通いはじめ、1977年に自身で編み物教室をスタートさせる。1990年に「草木染工房ちゃー美流」を主宰。2004年よりクラフト展に参加しはじめ、同年には全国手工芸コンクール優秀賞受賞。夫も草木染の作業を手伝うようになる。現在は、工房での教室や各地でワークショップを開催。全国各地で展示会もおこなっている。公式サイトでは、blogで、染に使った植物や編み物作品、イベント情報などを発表し、草木染の糸や作品を販売するオンラインストアも併設。著書には色への溢れる思いと糸や作品を紹介する『草木の色を編む暮らし』(アートダイジェスト)がある。
※2015/4/22(水)~4/28(火)には、ジェイアール京都伊勢丹 10階趣味雑貨売場にて展示会を開催。
慌ただしい日々のなかで、ふと空を見上げたとき、言葉では言い表せないような青空や、微妙なグラデーションの夕焼け空が目に入り、思わず心を持っていかれたという経験は、誰しもあるのではないでしょうか。おそとに出て、まわりを見渡すと、そこには様々な色が溢れています。一本の木の葉っぱも、ようく見れば同じ色はなく、季節や天候や時間帯によって、次々と変化していきます。そんな、その場所にしかない「色」を求めて、日本はもちろん、海外にまで足を運んでいるのが、デザイナーの藤原大(ふじわら・だい)さん。2007年より「カラーハンティング」という言葉で、身近にある自然や生物の「色」を観察・把握し、色見本化していく試みをライフワークにされています。