緑が深まる夏となりました。この季節に、おとの色について、これまで以上に知って、見て、楽しんでみませんか?そこで今回は、おそとの色をテーマに活動されている方や研究されている方に、それぞれが触れられている色のこと、その色の魅力や楽しみ方、さらには色の不思議についてお話を伺いました。奥深い色の世界を知ると、目に映る色が増え、彩り豊かな毎日を過ごすことができて、気持ちも豊かになっていくはずです。さあ、新たな世界へ足を踏み出しましょう!
(撮影[特記以外]/沖本明 編集・文/福田アイ 協力/foodscape! )
「好きなモノは何ですか?」と質問されると、日々触れたり集めたりしたいモノを答えますが、その答えとして「色」を一番にあげるのが、美術作家の植田志保さんです。色についてどのように考えておられるのでしょうか。そして、どんなふうに楽しんでおられるのでしょうか。
「色が不思議と感じることはいっぱいあります。色たちのことは掴みきれないし、本当のところはわからないから、知りたいし、そんな色に対しての可能性というものに夢が膨らみすぎて、大好きで、ドキドキして、惚れてるんです。だから、ずっと触れていたいし、いっしょに居たい」
彼女の作品は、平面を中心に、立体や空間など多岐に渡ります。すべてに共通することは、その場、そのとき、その物などが求める調和の空気を感じ取り、そこへ向かって色を用いて紡ぐという感覚。色と友だちのようにおしゃべりをしながら完成させるのだそう。だから、植田さんの作品展には『色のすること_枝豆の声はホトトギス色』というように「色のすること」という冠が添えられています。
「色も、色のすることも好きなんです。いつでもどこでもすべてにおいて色はあるし、色は空中にもあると思っていて。例えば仕事の場合、依頼内容を聞いてイメージしたら、『ちょっと協力してくれるかな』と色に集まってもらって、その動きを察したり、気持ちを感じたりして、『なるほどこうなりたいのか』『そっちに行きたいのか』と思ったり、『これがいいかなぁ、どう?』と声を聞いたりしています。そうやって絵の具で物に色を定着させて、お伝えする係が私です。観ていただく方には、色のすることをいっしょに不思議に思ってもらって、ウットリして、楽しんでもらえたらいいなと思っています」
植物や野菜をはじめ、特定の物と長く接する仕事をしている人たちが、物の声が聞こえてくるようになるという話をされることがあります。植田さんにとっては、その物が「色」。そして、植田さんが色をまるで生き物であるかのように話す理由は、既成概念にとらわれない「~かもしれない」という考えを持っているからです。
「だって、色も生きているかもしれないじゃないですか?私たちも生きているとは言い切れず、たぶん生きているんですが、生きているかもしれない、ですよね。その境目を外すと、私たちも色たちも、いっしょ」
世の中には「絶対」ということはないのかもしれない。そういう観点に立つことを、植田さんは「色」を通して伝えることもおこなっています。そのひとつが、『“みどり”って何色?』という子ども向けワークショップの開催。
「“緑”って、みんな言ってるけど、言葉でしかなくて、本当のところはいったい何色だろうか、と思ってたんです。それで、子どもたちと実際散歩に出かけて、見つけた物の色を掴まえて紙に定着させました。決まってしまっているかのように“緑”と言われていることを一旦取り外して、『これも緑かもしれない』という可能性みたいなことをみんなで思い巡らせて描くことがすごくいいなって。
『これはこういう色です』というのは、それはそれでいいと思うんです。でも、『こうかもしれない』と思って見ると、不思議に思うことやウットリすることが止まりません。そういう思いを巡らせることが豊かさだったり、なんか良かったりします」
植田さんが制作するときは、まずはイメージすることからはじめます。そのイメージは、日々のことや世界のことを色で捉え、「わー、これ、ウットリするほど綺麗!好き!」と目を輝かせたときの記憶が元となっています。そして、ウットリは、色を独自の見方で見ることから生まれてきます。「どこを見るでもなく、まんべんなく、あまり余計なことを考えずにフラットな状態でグイーンと見る」。そのとき大事なことは、いつでも「はじめまして」の気持ちを持つこと。
「色はいつでも全員はじめまして。ですよね?」
「私は兵庫県のものすごい山のなかで育ったんですが、草を見たり、水を見たり、家の畑で育てているホウレン草の茎やオクラの毛とかをめっちゃ綺麗と思って、そういうのにウットリして、胸がいっぱいになっていました。今でも料理するときは、ホウレン草の茎の色にウットリして、調理に20分もかかってしまって…。色にもっと慣れてスムーズに行動したいんですけど、気になる。すごく細かい色も。たまに気になりすぎて疲れる(笑)。
だからこそ、私は、発見したウットリを紡ぐ係。これからの時代、物がいろいろ増える時代にはならない気がしていて。物そのものを増やすというよりかは、今ある物をもう一回見つめることによって、言葉にできない中間色みたいな膨らみのようなモノを発見するということが大事かなと思っています。
例えば、草をじっと見るとか、川を改めて見るとか、そうすることで、明るさや希望や光の色を発見して、それにウットリしたら、私の場合は、紡いで、作品として発表していきたいと思っています。ウットリする色があったら、それだけで生きててよかったと思う。なおかつ、生きていこうと思えますから」
植田志保さん
1985年兵庫県生まれ。美術作家。子どものころから、何事も色で認識する。「ピアノを弾いていても、ドの人の色、レの人の色と、色で見ていて、和音を弾くとき、ドミソの人たちの色が合わないから嫌だ!とか」。特に好きな色は、「山にあるような色。落ち着くからですね。ときどき山へ元気を取り戻しに行く山チャージをしています」。雨が好きなことから、初個展のタイトルは『雨のひとつぶ』として、雨の粒の絵ばかりを発表。その後、関西を中心に個展やグループ展を多く開催し、海外にも進出。最近の活動は、Artevent『heART2014』/インターコンチネンタルホテル大阪での展示、モロゾフ「coffret」/イラストレーション提供、Depot Basel:MUSTERZIMMER 11 /チューリッヒでの展示、なんばCITY2014 春 メインビジュアル/アートワーク担当、季刊『草月』江國香織さん連載/挿画の担当、など。
\植田志保さんの描いた壁画を観に行こう!/
2015年6月23日にオープンした「foodscape!」は、風土とfoodを融合させた食べられるアート「foodscape!」をはじめ、様々な活動を通して食の本質を伝える料理開拓人・堀田裕介さんが手がけるアトリエ兼ショップ。1階のコーヒーとパンのお店では、堀田さんが全国の生産者を訪ねるなかで出会った、旬の食材を使用するパンと豆の鮮度にこだわったパンに合うコーヒーを楽しめる。植田志保さんが描いた壁画はイートインスペースに。「色のすること」を感じながらいつでもほっこり。テイクアウトが可能なので、近くにある中之島の川辺で食べるのも気持ちよい。
住所 大阪市福島区福島1-4-32
TEL 06-6345-1077
営業時間 8時~20時
定休日 不定休
URL http://www.food-scape.com
慌ただしい日々のなかで、ふと空を見上げたとき、言葉では言い表せないような青空や、微妙なグラデーションの夕焼け空が目に入り、思わず心を持っていかれたという経験は、誰しもあるのではないでしょうか。おそとに出て、まわりを見渡すと、そこには様々な色が溢れています。一本の木の葉っぱも、ようく見れば同じ色はなく、季節や天候や時間帯によって、次々と変化していきます。そんな、その場所にしかない「色」を求めて、日本はもちろん、海外にまで足を運んでいるのが、デザイナーの藤原大(ふじわら・だい)さん。2007年より「カラーハンティング」という言葉で、身近にある自然や生物の「色」を観察・把握し、色見本化していく試みをライフワークにされています。
おそとを見渡したとき、心を動かす色を放っているものといえば、植物。一日に一度は、誰もが目にするのではないでしょうか。といっても、普段は何気なく見て通り過ぎるだけ。その色について深く語れる人はどれほどいるのでしょう。そこで、植物が持つ色と日々向き合う草木染作家さんに詳しく教えてもらうことにしました。数多くいらっしゃるなかから、OSOTOがお願いしたのは、兵庫県の南西部、相生市の山間部で「草木染工房ちゃー美流(びる)」を開かれている徳力弥生(とくりき・やよい)さん。1990年より、「自然」をテーマに、工房から半径200m圏内に生息する植物を摘み、糸を染め、ニット作品を制作されている草木染兼編み物作家さんです。