かかとへアプローチする生き方エクササイズ!

写真右は「からだクリエイトきらくかん」代表の奥谷まゆみさん。写真左はスタッフの有吉ゆきこさん

気持ちや考え方が「しっかり安定していて、危なげなく、落ち着いている」ことを言い表す慣用句「足が地に着く」。漠然とした不安を感じている人が多い今の世の中では、足が地に着く状態でいることが必要ではないでしょうか。そのためには、どうすればよいかと思い悩む事に時間を費やす人も多いことでしょう。そこで、OSOTOは、ひらめきました。実際に、多くの時間、足を大地に着けて身体を動かして過ごすと、気持ちや考え方も足が地に着くようになるのではないか。この考えを確かめるために、ここ数年の間に仕事の場を畑や山へ移した方々を訪ね、気持ちや考え方の変化を中心にお聴きすることにしました。また、足が地に着いている人の身体のことや足を地に着ける方法を「からだの専門家」にお聴きします。
(撮影/出原和人 編集・文/福田アイ)


かかとへアプローチする生き方エクササイズ!

 同コンテンツのvol.17「がんばらないで健やかに」にご登場いただき、心と身体がワンセットであることを教えて下さった「からだクリエイトきらくかん」代表の奥谷まゆみさん。心理療法と整体を学んだのち、身体を観察することから、ひとりひとりに合うエクササイズを見出すという独自の整体法を考案した整体師です。そこで、今回もご登場いただき、慣用句「足が地に着く」と実際の足との関連をお聴きすることにしました。すると、やはり、心と身体は繋がっているとのこと。又、「心を変えたいなら、身体を変えた方が早い」という考えを持たれているので、足が地に着くようになるエクササイズや身体の使い方を教えていただきました。ポイントになるのは、かかと。「かかとって本当にエライの!」と奥谷さんが絶賛されるかかとに意識を向ければ、どんな人の足も地に着く。つまり、気持ちや考え方においても足が地に着く生き方をすることができるようになるそうですよ!

決め手は、重心の置きどころ。
キーワードは、「責任」「現実」。

気持ちや考えの上で足が地に着いている人は、実際の身体を見ても足が地に着いています。日本人は、身体感覚が素晴らしくて、身体についての慣用句を身体ありきで生んできたと、本当によくわかるんですが、例えば、腹が立っているときには、おなかの筋肉が立っているし、逆に言えば、おなかの力を抜いて、フニャっとしたまま「ちくしょー」「超腹立つー」と怒ろうと思っても怒れないと思うんです。「足が地に着く」も、まさにそう。

では、足が地に着いているとはどういう状態かといえば、かかとに重心を置いているということなんです。かかとに重心があると、実際はベタっと着いているわけではないけど、すっごくぴったりしっくり地面に着いている感じがします。安定してるんですね。それだと、おなかに力が集まりやすいから、踏ん張れて、気持ち的にも、どうしよどうしよって不安を感じないし、いろんなことを冷静に判断できて、気持ちが落ち着いた状態でいられます。私の場合は、足が地に着いている人は、足の裏を見るとすぐわかるんですが、そういう人のかかとは、大きい。そこから生き方もわかるんですよ。

かかとに重心を置いている人、つまり足が地に着いている人は、身体的、あるいは精神的に負荷がかかっている人です。重い荷物を持つとか物理的に踏ん張ることが多い人に加え、責任を背負っている人もそうなんです。責任というのは、「あなたは自由にしてもいいですよ」という意味なんですよね。なんでも自分で決められる。そこをみんな誤解しているんですけど、はじめはちょっと大変と感じつつも、「この仕事を投げ出さないでやらなきゃ!」「人のせいにしないで生きていこう!」と思うと、仕事の大きさは関係なく、どんな仕事でも楽しくなるし、身体はその負荷を抱えられるようにしようとなるので、自然とそのような身体、つまり、かかとに重心が移ってくるようになります。

また、かかとに重心がある人は、現実をちゃんと見ている人。「今」に気持ちを向けている人です。例えば、農業は、目の前にあるものを扱っていますよね。目の前の雑草だったり、収穫物だったり、枯れてしまったものだったり、すべて現実なわけです。農業以外でも肉体労働は現実を見やすいですよね。だから、かかとに重心を置きやすいというのもあります。

身体の軸は時間の軸。
今を充足できない身体とは?

逆に、かかとから重心が外れている人は、「今」に気持ちを向けられません。身体の軸は時間の軸とすごく似ているんですが、お尻が後ろに出て、胸を前に突き出し反り腰で前傾になる人の場合は、先に意識が行き過ぎます。例えば、今ものすごく幸せだけど、明日どうなるかしらと心配になる。今ごはんを食べているけど、明日のごはんのことが気なってしまう。主食を食べているのにデザートのことを考えてしまう。先のことは、イメージに過ぎません。目の前のものに気持ちを向けずイメージばかりしていると、さらにどんどんどんどん前に傾いてしまいます。

最近、反り腰で前傾になりやすい人が増えていると感じるんですが、現実を見たくないというのもありそうですね。現実を見ないと、自分の問題点を見ないわけだから、改善や解決が何もできない。現実の積み重ねが自分というものを作るから、いつも明日ばかり見ていると、スカスカな自分になってしまいます。一年間、スカスカで過ごすのと、毎日自分に足りないことや今の自分にできることを考え積み重ねてやっているのとでは、一年後にとんでもない差が生まれますよね。

同じ前傾でも腰が後ろに傾いている猫背の場合もあって、その人は意識が後ろに行きます。過去の話や過去の自慢が多くなるんです。自分がこうなのはこういう育ち方をしたからだ。今こうあるのはなぜだろうとか原因を究明したがる。なぜそういえるかというと、例えば、小さなころに住んでいた景色を思い出して下さい、と質問されると、身体はどうなっているでしょうか。腰がちょっと後ろに倒れて背中が丸まり前傾になっていませんか?つまり思考と身体の使い方はセットだからです。

又、かかとに重心を置き過ぎている人もいます。かかとだけじゃなくて全部がペタっと着いている、へん平足ですね。そういう人は、すごく現実的過ぎるんです。「こうなったらいいのになぁ」とか夢を見られない。「どうせ俺は無理だよ」と今しか見られなくなっている人。そういう人は、スタンプを押すみたいに歩くんですが、前に進みづらいし、かかとに力が入り過ぎて、かかとにヒビ割れができてしまうんですよね。私たちの何かをする原動力って、こうなったらいいのにという想像や夢があるから。だけど、かかとに重心を置き過ぎている、つまり地に足が着き過ぎていると、明日も明後日も今と同じでいい、現状のままでいいと思って成長がないんです。

人間は四つ足に戻りたがる。
だから二本足を意識してキープ!

実は、人間は、普通に生きていたら前傾するようにできているんです。というのも、四つ足向けの身体なのに、無理矢理二本足で立っているから。動物と人間の骨を見ると、頭蓋骨の形とかはちょっと違うけれど、ほぼ同じ骨で構成されています。動物になくて人間にある骨は鎖骨だけ。二本足になるとき、頭を支えるために肋骨の一部が変形したそうです。それだけの差だし、人間は必要なものが身体の前面に全部付いているから元々つま先に重心を置きやすい身体でもあるので、私たちは、すぐに前傾してしまう。でも、人間として生きていくためには二本足で立たなきゃいけない。そのとき、どちらかに傾いた姿勢だと重心はかかとから外れてしまうし、やっぱり不安定ですよね。

だから自分の身体を支えやすくするには、まずはかかとに重心を置くことが一番なんです。そのために必要なのが筋力。二本足で立てる筋力って、人間が最低限必要な筋力なんですよ。それがなくなると、内臓の位置が変動して、前傾してしまいます。そこで大事なのは、自分の身体を支える意識。「私は何も考えていないと前傾しちゃうよ」と覚えておいて、意識的に頭をかかとの上に置くようにすれば、かかとに重心は移ってきます。かかとは脚の骨の付け根ですからね。私たちを一番支えてくれる土台なんです。

ながらエクササイズで、
足が地に着く身体と心へ。

では、どうやって筋力を付けるか。いつも身体が前傾していると、脚の裏側の筋肉がちょっと縮んでいて、前側が長いという筋肉バランスになってしまっているんですね。そうすると、自然とかかとは浮いてくる。なので、筋肉バランスを戻してあげるために、ストレッチをして伸ばしてあげます。エクササイズの目的は、かかとに重心を置ける身体を作るということです。紹介するエクササイズは、同じ位置に立ったままでできるので、例えば歯磨きをしながらとか、何かをしながらでもできます。エクササイズで足が地に着く感覚を身に付けていけば、あとは、道具がなくても、重心をかかとに移せるようになりますよ。

エクササイズ①
かかとへアプローチする生き方エクササイズ!

「これは一番簡単なエクササイズです。コピー用紙500枚分ほどの高さの紙の束に、つま先を約1分間載せるだけ。強制的にかかとに重心を置いているんですが、前傾している人が一度やってみると、かかとに重心が移ったとわかるはずです」

エクササイズ②
かかとへアプローチする生き方エクササイズ!

「エクササイズ①より少し丁寧におこなう、テニスボールを使ったエクササイズです。テニスボールの上へ、親指の付け根、内側3本の指の付け根、小指の付け根より少し内側の3カ所を順に載せ、つま先が正面に向くようにして、前傾にならないように立ちます。各箇所約30秒ずつです。もう片方は平行に揃えます。そうすると、ボールに載せた方の脚の裏側が少し伸びる感じがすると思います。両足をおこなえば、足が地に着いている感じがするはずですよ」

身体へのアプローチは心へも有効です。かかとに重心を置くということは、おなかに力を集めやすくなるため、責任を取れる身体になれるということでもあります。今、責任を必要とする機会があっても、身体の方が責任を取りづらくなっていると、責任のある仕事や人生を送るのが嫌になります。逆に身体が変わることで、責任を取ることに興味が出てくるようになります。

かかとに重心を置けるようになったら、次は指の付け根にも注目です。足には、もうひとつすごく大事な働きをするところあがって、それが、指の付け根なんです。蹴り出して前へ進むところ。推進力を作るところですね。重心を置いた「今」というかかとがあって、今こうだよね、と思いながら、指の付け根で蹴り出して、明日に向かって歩いて行くように足ってできているんです。その蹴り出すところの筋肉の柔らかさはエクササイズ②で作れるけど、柔らかくなったとしても動かさないと、筋力は鍛えられません。鍛える方法は、歩くことです。かかとに重心を置けるようになると、自然と指の付け根で地面を蹴ることができるようになるので、どんどん歩くと良いですよ。

さらに、足の裏の感覚を良くすることも、足が地に着く身体になっていく方法のひとつです。感覚を良くするためには、平らなところよりも、凸凹しているところや砂利のあるところなど、いろんな素材のところを歩いた方が良いですね。履く物も大事で、ハイヒールや機能性の高い靴より、地面の質感がわかるような靴の方が足に意識を向けやすく感覚は良くなります。痛いと思うのも良くする第一歩。例えば、林業の場合、木の根っこやすごく凸凹したところを歩いているわけで、そんなところを歩く方が足の感覚や身体の軸ができあがってきます。そうでないと転んでしまいますからね。

不安定なところを歩いて、歩き方という身体の知恵が得られたら、行動や思考に影響を及ぼします。どんなところでも歩けるということは、どんな時代になっても、何が起こっても、現実を見て生きていける力が備わるということです。

かかとへアプローチする生き方エクササイズ!

奥谷まゆみさん

1964年生まれ。OL生活を経て、心理療法や整体を学び、1994年に整体指導をスタート。1998年に東京で開業。後に、からだの不調は、からだの使い方を変えれば治せることに気付き、「からだクリエイトきらくかん」をスタート。からだの観察をおこない、自分で治せるエクササイズを指導する「からだレッスン」や季節のからだに合わせたワークショップを考案。現在は、講演会やウェブマガジンの連載など活動の場を広げている。著書は、『骨盤引き締めの大誤解』(ブルーロータスパブリッシング )、『腰痛診書』(ブルーロータスパブリッシング)、『おきらく整体生活』(筑摩書房 )、『クタクタ☆ハッピー ~現代人を救う究極の健康法~』(きらくかん)など多数。

からだクリエイトきらくかん公式サイト
http://www.kiraku-kan.com/

奥谷まゆみさんを指名できる「からだレッスン」と「奥谷まゆみスペシャルレッスン」は新宿と八王子北野のスタジオで受けられます。東京・大阪・京都などで開催されるスタッフによる「ワークショップ」の詳細についても公式サイトをご覧ください。


  • 自分に正直に生きれば、何があっても大丈夫。

“林業女子”という言葉を目にする機会が増えました。山の手入れが早急に必要とされるも人材不足が深刻となっている林業界において、人数は少ないものの林業の将来を担う若い女性に話題が集まっているのです。そこで、今回は、希少な林業女子にお話を伺いたくなり、林業に興味のある女性たちが林業を盛り上げたいと活動する「林業女子会@京都」にご協力をお願いしました。ご紹介いただいたのは、京都府南丹市にある園部町森林組合で働く渋谷菜津子(しぶやなつこ)さんです。

  • 続きを読む
  • 農家の生きる極意は前向きな諦め

最初にお話を伺ったのは、大阪府の最北端に位置する能勢町で2009年から農業をはじめた植田歩さんと、2012年から同町で農業をはじめた今堀淳二さんです。農家の基本的な生活は、太陽が昇れば仕事をはじめ、太陽が沈めば仕事を終えます。そのため、一日の仕事時間は、夏場が長く、冬場は短くなりますが、来る日も来る日も、畑という大地に足を着けて働きます。そんなふうに季節や天気を含めた自然を感じながら生きるようになられたお二人のお話をお聴きしていると、やはり、気持ちや考え方も足が地に着いてくるのだと確信しました。そう思えるキーワードは、意外かもしれませんが、「諦め」。彼らのような生き方をするからこそ必要となる前向きな諦めです。いったい何を諦めたのでしょうか。

  • 続きを読む

  • OSOTOトップへ
  • 全ての記事一覧