川、海、山、森…。壊れつつあると言われて久しい自然を、自分たちの手で再生させようと活動する人たちが増えています。
なかでも、森づくりをしながら壮大な夢を追うNPO「京都土の塾 森の部」の活動は、ハッピーかつ、ワイルドで、ブリリアント。真摯な理念を追い求めつつ自由に森を楽しむ人は、私たちが今必要とする大切なものをたくさん持っていました。
京大桂キャンパスの近く、唐櫃(からと)越えに沿って、竹に占領された里山があります。この12haの敷地で2年前より活動しているのが、NPO団体「京都土の塾 森の部」のみなさんです。単なる森づくりをするのではなく、その活動を通じて、自分たちとそして次代を担う子どもたちの野生の感覚を蘇らせることを一番の目的としています。
「なぜなら人類が生き残っていくためには、どうしても昔のような自然との共生という道を歩まなければならないと考えるからです。
京都土の塾は食べ物を自力で獲得することを目的とした畑のプロジェクトからはじまりましたが、安全で美味しい『食』の追求だけでは、人類は滅んでしまいます。これからの地球では逞しく生き残っていけない。生活感覚そのものが、自然に生きるものたちと同じレベルになっていなくては、という思いから森づくりの活動がはじまりました。
私たちが機械を使うといった楽をせず、森の生きものの一員になることができたら、真の共生が実現するはずです」と理事長の八田逸三さん。
また、副理事長で森の部リーダーの玉井敏夫さんによると、「山の肥やしは草鞋の足跡、と言うように、山をはじめ森を元気にするには、多くの人がいろんなかたちで足を踏み入れてくれることが必要です」とのこと。
そんな考えに共感した人たちが、原則自由に、それぞれの夢や想いを抱いて森づくりに取り組む。それがこの団体の特徴であり魅力です。
現在の会員数は41名とそのファミリー。今回は取材のため6名の方たちが集まってくださり、そのうちの1人(奥剛嘉さん)はいつものように篠笛の演奏を、他の方たちは吉川紀子さんの「孫に松茸を食べさせてあげたい!」という夢の応援です。松茸は、痩せた土で松と共生する植物。そのためにはまず積もりに積もった落葉と腐葉土を取り払うことが必須です。地山の色が見えるまで、とにかく掻く。そうすれば、30年後(!)には松茸が…。
「最初は竹薮みたいだったんです。だから去年、竹を伐ることからはじめました。
こうやっていると、いろんなイヤなことを忘れられるし、ここでかく汗は他の汗とはまた違う気持ちよさがあるんですよ」と吉川さん。
他の方にも話を聞くと、竹を伐採し森の中を通る古道を明るくしたいという山田康男さんは、「森づくりは、アホになれる。ボケーとして何も考えない。最高ですわ」。美しい木を残すため、竹を夫婦で伐採している山田光夫さんは、「僕が竹を切って女房が枝葉を払ってくれる。子作り以来の夫婦の共同作業で(笑)、夫婦の仲がよくなるというご利益がありますよ」。焚き火を囲んで語り合う「いろり倶楽部」をサポートする森川惠子さんは、「この森の気持ちよさを、街に住む人たちにも広めていくことも、森づくりの目的のひとつかなと思っています。自然のなかにいると、普段眠っている動物的勘が甦ってくるんですよ!恋する気持ちも湧いてきて(笑)。自分を解き放つこともできて、素直になれるからかもしれません」。そして、月に10日以上は森に入るというリーダーの玉井さんは、「作業の期限が、この3ヶ月にやればいいとか2年のうちにやったらいいよ、というゆったりした時間なので、私にあっていますね。そんなことだから気持も大らかになって、夫婦喧嘩が少なくなりましたよ」と、どの方も晴れやかな顔をして答えて下さったのが印象的でした。
「誰かが決めた何かを達成するとか、奉仕するとなると、苦しいですからね。参加者が主体的に活動するというやり方だと、みんな楽しいんです。ですから、ここみたいに放置されて荒れた森を、私たちのように都市に住みながら、夢をもって自主的に蘇らせる。
そんな健康的な活動ができたら、普段の生活もすごく楽しいものになると思いますよ。こんな考え方が広まってくれたらという願いを持っています」。
70代にして少年のような瞳を持つ八田さんが、このプロジェクトを計画しはじめたのは50歳のとき。八田さんの私たちの未来を見すえるやさしくまっすぐな想いには、帽子にとまった黄金虫も熱心に聞き入るほど。いつまでも耳を傾けていたいと思いました。
もちろん森づくりへの興味を膨らませつつ。
理事長 八田逸三 TEL&FAX:075-391-5325