自分で発見して、考えて、行動できる場へ!

目まぐるしく変化する日本の社会では、「生きる力」が強く求められるようになりました。そんななかOSOTOでは、折に触れて、おそとで過ごすことが私たちにとっていかに大切かをご紹介してきました。そこで今回は「子どもの生きる力」に焦点を当て、子どもたちに向けた活動をおそとでおこなっている方々にお話を伺います。そもそも生きる力とは何なのか?また、生きる力は、おそとでいかに育まれるのか?家庭で、職場で、地域で、「人が育つ」環境づくりを担う大人のみなさんにとっても、思いもよらない考え方や価値観に目の前が明るくなるかもしれません。
(取材・文/しみずかおり 編集/福田アイ)


自分で発見して、考えて、行動できる場へ!

どんな状況でも子どもたちがたくましく生きていけるように…。そんな願いからはじまった、親子で一緒に学べる避難生活体験プログラム「レッドベアサバイバルキャンプ」。自然のなかの不便な場所でサバイバル体験をするキャンプに、デザインや楽しい企画が盛り込まれているので、サバイバル生活初心者でも、楽しみながら「生き抜く」ための力や知恵、技を身につけることができると話題を集めています。そこで、「レッドベアサバイバルキャンプ」の活動や、主催するNPO法人プラス・アーツの理事長・永田宏和さんのお話から、「生きる力」とは何か、そして、それを身につけるためのヒントを探ってみました。

災害時に必要な生きるための技を身につける2日間

 神戸市の摩耶山上にある、神戸市立自然の家。自然豊かなこの場所で、「レッドベアサバイバルキャンプ」は、2011年秋にはじめて開催されました。1泊2日のキャンプ生活で親子の参加者たちが取り組むのは、「火おこし体験」「ペットボトルろ過器づくり」「空き缶ランタンづくり」「ロープワーク体験」「紙食器づくり」「なべごはんづくり」といったプログラム。これらはすべて、電気やガス、水道などがない場所で生活するために欠かせない技術。東日本大震災の際、被災者たちに実際に必要とされた「生き抜くための力」です。

 2日間のうちの1日目はワークショップの日。家族が別々になり、料理班、サバイバル班、シェルター(テント)班、レクリエーション班に分かれサポーターと一緒に、プログラムを体験しながら技を学びます。2日目はトライアルデイ。親子が再びチームとなり、1日目に学んだサバイバルの技ができるかに挑戦!クリアできた家族全員に、プログラムごとに「技バッジ」が進呈されます。

技バッジを集めることで、“サバイバル”が楽しいイベントに

 技バッジとは、「大人たばこ養成講座」などで知られるアートディレクター・寄藤文平さんのデザインが施された缶バッジのこと。各プログラムの内容に沿ったイラストが描かれていて、全種類集めたくなるかわいさです。実際に子どもたちは、このバッジを集めるために大奮闘。子どもは、元々コレクションすることや挑戦すること、競うことが大好き。誰よりも早く上手に課題をクリアしたい、そして技バッジをたくさん集めたい、と本能を刺激されるのでしょう。それが証拠に子どもたちはみんな楽しそう!キャンプ場からは、終始笑顔が絶えません。普段テレビゲームばかりしている子どもも、ゲームを放ったらかして課題をクリアするために夢中で取り組んでいます。技バッジを集めたいと思う子どものために、親たちも一肌脱ごうと頑張ります。料理系プログラムはお母さんの腕の見せ所、火おこしプログラムはお父さん担当…そんな風にお互い助け合って、家族の絆も深まっているようです。

豊富な種類の技バッジで、協力する大切さを実感

“料理(炊き出し)を手伝ってくれた”“キャンプファイヤーのお手伝いをしてくれた”など、プログラムを自力ではクリアできない幼い子にも、技バッジがもらえるチャンスはあります。“赤ちゃんをずっと抱っこしてキャンプに参加した”お母さんがもらえるような「キングベアバッジ」という名の、その日一番頑張った人がもらえるMVP賞的なバッジまで。誰もが、自分ができる力を発揮することでもらえる技バッジは、自然と“自分の役割を認識して、周りと協力する”という、協調性を高めることにも役立ちます。家族で参加しているけれど、敢えて家族バラバラになってチームを組み、挑戦する1日があるのも、そんな力を養うため。災害時、家族がいつも一緒にいられるとは限りません。知らない人とも協力できる力こそが、「生き抜く力」へとつながるのです。

開催する土地に合わせたオリジナルプログラムを導入

「レッドベアサバイバルキャンプ」の評判はじわじわと広がり、福島県、静岡県、岡山県でも開催。今年6月にはタイのバンコクでもおこなわれます。水害に遭いやすい、原発が近くにあるなど、地域ごとに災害時の“生きるために必要な力”は異なります。だから、「レッドベアサバイバルキャンプ」は、その土地オリジナルのプログラムにこだわります。その土地の人が子どもたちに身につけて欲しいプログラムをアレンジして子どもだけで参加するキャンプもあります。けれど、プログラムをクリアして技バッジを集めるというシステムは同じ。できる事が増えると、技バッジも増えていく。その数だけ、参加者たちはたくましくなる。サバイバルやアウトドアについて全く初心者だった人たちが、帰るときには、全員自慢げに胸を張っているように見えるのは、きっと気のせいではありません。

自分で発見して、考えて、行動できる場へ!

「レッドベアサバイバルキャンプ」をはじめようと思ったのはなぜですか?

災害があったときに「生き抜く力」を養うためというのが本来の目的です。僕は2005年ごろからこのキャンプとは別の防災体験プログラム「イザ!カエルキャラバン!」に取り組んできました。でも、そのプログラムは、ケガしたときにどう手当をするか、ケガ人をどうやって運ぶか、火事をどうやって消すか、という対処療法なんですね。もちろんその知識や技は大切ですが、実際災害に遭ったあと、最も必要となるのは、もっと原点の、生き抜く力や生きるたくましさだと思うのです。それに気づかされたのが、東日本大震災のときです。被災地に駆けつけたスタッフが要求されたのは、薪を割る、焚き火をして火を管理する、その火を使って料理する、避難所の各所で棚や間仕切りを作る、テントを張るといった力でした。何でも提供されるという便利なシステムのなかで暮らしている現代で、こういったことを、どれだけの人ができるのだろう?大人でもできない人が多いのに、まちで見かける今の子どもたちの多くは、普段ゲームばかりして基地作りもしない、公園で遊ぶことも少なくなったという状況です。だから、そんな力が養える場を作ることが必要だと感じたのです。

生きる力を育むために「レッドベアサバイバルキャンプ」で工夫しているところは?

サバイバルやアウトドアの知識が全くない子どもや親たちでも参加してもらえるように工夫しています。生きるたくましさを養うことに一番強い想いを置いているけれども、それをそのままやれと言っても初心者の人は参加しないし、技も身につかないと思うんです。だから、デザインや企画内容で楽しい場作りにすることを心がけています。例えば、寄藤文平さんにグッズやロゴのデザインをお願いしたのもそう。親しみやすいデザインで、敷居を低く感じてもらおうというのが狙いです。技バッジというシステムを作ったのも、子どもが楽しめるように。今の子どもたちを見ていて思ったのですが、ゲームにハマっている子どもって、それがやりたくてやっているというよりも、暇つぶしだったり、他に夢中になれる魅力的なことがなかったりするからやってるんです。現実の世界に喜びとか楽しみがあれば、絶対やらない。「何かをマスターしたい」という気持ちは、人間のベーシックな欲求としてあると思うし、それを満たすものが身近にあれば、そっちに没頭するはずなんです。没頭して、楽しんで得た力の方がきっと身につくと思います。

永田さんが考える生きる力とはどういうものですか?

「一から何でも作れる力」だと思います。便利な道具があれば、誰でも作れるんでしょうけど、そういった道具がない災害時などは、いかに創意工夫し、臨機応変に対応できるかという力が求められる。岡本欣也さんという有名なコピーライターの方に、地震EXPO(※)のコピーを作ってもらった際に「二つのソウゾウリョク」という言葉を使われました。「二つのソウゾウリョク」とは、「想像力(=アイデアをイメージできる力)」と「創造力(=アイデアを具現化する力)」です。今何が必要かをパッと思いつき、それを形にできるかどうか。それができれば人は生きていける。まさに、この「二つのソウゾウリョク」こそが、「何でも作れる力」、つまり「生きる力」なのだと思います。

※地震EXPO=2007年に開催された、建築家やアーティスト、デザイナーなどが中心となり防災のためにできることを考え、カタチにした展覧会。

「レッドベアサバイバルキャンプ」で生きる力は養われていると思いますか?

養われていると思います。災害時の「生き抜く力」や「二つのソウゾウリョク」はもちろんですが、それだけでなく、子どもの精神力も養われているように思います。自分の力で何かできるようになるという体験は、自分の成長が実感できるから、自信や誇りにつながるんだと思います。僕自身も、ロープワークができたらちょっとうれしい(笑)。いい気分になります。すると、心に余裕が生まれ、いろんな意味でゆとりができ、パニックになりにくくなる。そういった精神力って、トラブルに直面したときに強いし、リーダーシップも発揮できるようになる。そういう子どもが増える世の中がいいし、リアルな「生きる力」につながると思います。

生きる力を養うにはどうすればいいと思いますか?

自分で発見して、自分で考えて、自分で行動できる場に身を置くことでしょうね。公園で桜を見て歩くだけでも、知らなかった虫や花が発見できる豊かな体験になると思うのです。今の子どもが「二つのソウゾウリョク」を養おうとしても、大人が子どもにやらせないことが多過ぎるように思います。例えば、ナイフで鉛筆を削るのは危ないからやらせない。カッターを使うと怪我をするから、ハサミしか使わせない。オール電化の家が増えて、火を見たことがない子どもさえいます。しかし、人間が猿から進化できたのは、火をおこし、道具を使うようになったから。火も使えない、ナイフも使えない子どもに、ソウゾウリョクが養えるとは思えません。家族や誰かと力を合わせて何かできる機会もないでしょ。本当は「レッドベアサバイバルキャンプ」のような場を、わざわざ作らなくていい世の中の方が健全なんです。でも、現実に減ってきている以上、そういう場を敢えて作っていかなければならないことは間違いないでしょうね。

レッドベアサバイバルキャンプ

キャンプサポーターのみなさん

アーティストの既成概念に捉われない発想や創造力を活かして社会の課題を解消し、再活性化することを活動目的とする「NPO法人プラス・アーツ」が東日本大震災をきっかけに、対処療法的な防災ではなく、災害時に「生き抜く力」を養いたいという想いから、震災翌月の2011年4月に神戸でこのプロジェクトを発足。キャンプサポーターとともにキャンププログラムを作り上げた。ロゴやTシャツ、軍手、バッジなどのデザインにこだわったり、サバイバル技を修得した人にバッジを進呈したりといった、子どもの積極性を引き出す仕掛けを作ることで、サバイバル生活初心者でも、楽しみながら生き抜く技を学べる雰囲気作りに成功。このノウハウは、全国のサバイバルキャンプなどで利用できることから、導入したいという地域団体が徐々に増えつつある。東日本大震災の被災地である福島県・いわき市では、公民館や小学校で子ども向けにおこなうサマーキャンプに、「レッドベアいわき防災キャンプ」という名前で導入。震災時、1ヵ月水道が止まったことから「たくさんの水を効率よく運ぶ技を学ぶプログラム」を作ったり、オリジナルのバッジを考案したりするなど、開催地域の独自性を重視。地域の人が中心となって実施、継続できるよう支援をおこなっている。また、神戸ではこの取り組みを広めていくため、自主イベントの開催や親子参加型キャンプイベントの企画・運営を中心に活動するサークル「レッドベアサバイバルキャンプクラブ」も発足し、継続的に活動をおこなっている。

レッドベアサバイバルキャンプ公式サイト

» http://red-bear.org

NPO法人プラス・アーツ公式サイト

» http://www.plus-arts.net



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