大地の恵みを感じるおそと

大地の恵みを感じるおそと

草木や土の香りがする美しい風景のなかでの農作業は、都市に住む人には非日常的な感覚をもたらします。棚田の原風景を守ろうと地元の人たちが創設した“明日香の未来を創る会”では、週末、大阪や京都などから会員家族が集い、農作業をおこなっています。彼らの活動を通して、大地の恵みに触れ合う魅力をお伝えします。

(文:石塚育代)


「原風景を残したい」

奥飛鳥の棚田は、国の重要文化的景観地に指定されていて、四季折々に素敵な風景を見せてくれます。しかし、美しい風景を作り出す棚田は、その効率の悪さや高齢化などから担い手も少なくなり、20年ほど前は荒廃化していたそうです。
そこで立ち上がったのが寺西理事長率いる地元の人たち。“棚田の風景を残したい”との想いを胸に“明日香の未来を創る会”ができました。「“荒廃した棚田を復活させて、受け継がれてきた大自然と歴史的景観を残したい”とみんなで話し合い、行政と一緒に力を合わせて、国や個人から荒廃した棚田を買い取り、会の運営方法を考え、平成7年にこの会を立ち上げました。そして、平成22年にはNPO法人となり、会ができてから17年が経ちます」と寺西さん。

継承されていく棚田の風景

“明日香の未来を創る会”は、棚田オーナー制度を中心に展開しています。“たんぼコース”“トラストコース”“はたけコース”と3つのコースがあり、各オーナーは「田植え」や「草刈り」、「稲刈り」などの作業を、インストラクター(会の役員でもありオーナーでもある地元農家の人たち)の指導を受けながらおこないます。大変だけどその分、収穫の喜びも大きいとか。
初年度のオーナー数は“たんぼコース”36家族でしたが、今では、“たんぼコース”80家族、“トラストコース”15家族、“はたけコース”70家族となり、毎月の作業時にはたくさんの家族が訪れ、ときには何十人もの人が明日香村を訪れるそう。オーナーには小さなお子さんがいる家族からご年配の夫婦まで多彩な人たちがいて、住んでいる地域も京都や大阪、奈良など様々。
家族と週末に明日香村へ行き、青空の下、季節の移り変わりを肌で感じながら農作業に取り組みます。他のオーナー家族とも一緒に作業をするので、農作業を通じて交流も生まれ、作業がひとつの家族行事になり、棚田に行く楽しみがどんどん増してくるようです。

たくさんの家族が集まって、農作業をおこないます。家族や仲間と力を合わせて育てたお米や野菜は、なにより美味しいご馳走になります

「とりあえず来て頂ければ、すぐにでも農作業がはじめられます」と寺西さんが言う通り、作業道具は借りることができ、インストラクターが一から教えてくれます。
会を立ち上げた当初はインストラクターが35人程いましたが、今は23人。会が出来てから17年が経ち、高齢化によりインストラクターも減ってきているそうです。ところがこの会のすごいのがオーナーとして参加している人たちが、インストヘルパー(インストラクターの補佐的存在)として育ってきているところ。インストヘルパーはインストラクターの予備軍として、オーナーの農作業の相談にのったり、イベントのお手伝いをしています。「“明日香の未来を創る会”の目的の一つは、棚田を継承していく人を育てることでしたので、とても頼もしく思っています。また嬉しいことに、ここが気に入って、明日香村に引っ越して来たオーナーさん家族もいらっしゃいます」と寺西さん。地元の人たちの“原風景を残したい”という想いが伝わって、カタチになっているのです。

たんぼコース

■たんぼコース
5月~11月の期間、田植え、稲刈り、脱穀等の米作りが体験でき、新米約40kg(最低保証量)がもらえます。
(会費¥40,000/区画 、募集78区画(1区画100㎡))

トラストコース

■トラストコース
稲刈り、脱穀作業の体験と、景観保全のためにススキ(ワラを積み上げたもの)をつくります。新米約30kgがもらえます。
(会費¥30,000、募集15口(区画分けなし))

はたけコース

■はたけコース
季節の野菜や花の栽培ができ、野菜の育て方やこつを、地元農家の人たちに教えてもらえます。毎月2回~4回以上の作業があります。
(会費¥10,000/区画、募集100区画(1区画30㎡)※複数区画可)

明日香村の未来のために

集会所の横には窯が設置されていて、年に2回“炭焼き”がおこなわれています。取材時は子どもたちを含めて20人ほどが“炭焼き”に参加していました。木を切る人、小枝で種火をつくる人、窯に丸太を詰め込む人と役割分担がはっきりとわかれ、みんなで作業をおこなう様子は手慣れたもの。会では、里山保全のために“炭焼き”を毎年開催しているそう。現代では燃料としての炭の必要性が少なくなり、炭焼きはあまりおこなわれなくなっています。ところが、炭焼きに使われているクヌギの木は生長が早く、定期的に伐採をしないと里山の荒廃を招いてしまうのだそうです。そうなると、棚田周辺の風景も今とは違ったものになってしまいます。そこで、会では毎年クヌギを伐採し、炭焼きをおこなっているのです。棚田の存続だけでなく、明日香村全体の“景観”に強い想いを持って、“明日香村の生態を継続させるためには”と常にみんなで考え、行動しています。

毎年恒例の炭焼きの様子。多数の家族が参加して、まるで一つの家族のようにみんなで団結して作業に取り組む様子が印象的

オーナー制度以外に開催しているイベントもたくさんあります。バーベキューやファッションショー、明日香の春を満喫できる“恋華祭り”や蛍から学ぶ明日香の自然体験会、棚田に彼岸花が咲き誇り、色鮮やかな風景が楽しめるころの“彼岸花祭り”など、四季折々の明日香村を堪能できるものばかり。「明日香村は棚田の原風景以外にもたくさんの自然に囲まれています。この貴重な明日香村の財産を生かして、今後は環境教育もおこなっていきたいと思っています」と寺西さん。

晩夏に棚田を縁取る真っ赤な彼岸花、冬の棚田を覆う真っ白な雪。季節ごとにがらっと変わる棚田の美しい風景も明日香村の財産です

普段の生活から離れて、週末、農作業をするために明日香村へ行く。都会に暮らす人たちにとって明日香の棚田は心癒される景色であり、新鮮な恵みを与えてくれる場所。“明日香の未来を創る会”では、農作業や他の家族との交流によって、明日香村の棚田や関わっている人たちが成長しているのだと思います。棚田はお米や野菜の恵みを生みだすだけではなく、人も成長させています。それこそが、大地の恵みなのではないでしょうか?

【賛助会員】
奥飛鳥の棚田を含む、明日香地域の環境保全のサポートをする賛助会員を募集中。
会員になると、会が主催するイベントに参加できます。まずは賛助会員からはじめてみてはいかが?
会費(年間):団体¥10,000 個人¥2,000
※明日香村の風景カレンダー付

【問合わせ先】
NPO法人 明日香の未来を創る会
奈良県高市郡明日香村大字稲渕593番地の1
FAX:0744-54-2145
Mail:asukamirai@gmail.com

寺西さん


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