都市を豊かにするミツバチ

大都市を豊かにするミツバチ

大阪のど真ん中、梅田のとあるビルの屋上で、小さなミツバチたちの羽音が聞こえはじめました。“ブ~ン”というその音は、まるで春を知らせる号砲のよう。彼らにとって忙しい季節のはじまりです。


梅田にミツバチがやってきた!

私たちが毎日食べている野菜や果物の実りに、ミツバチがとても大きな役割を果たしていると知っている人は、どれほどいるでしょうか?ミツバチたちがせっせと蜜を集めることで受粉がおこなわれ、種や果実などの豊かな実りがもたらされます。ミツバチがいることで、多くの自然の恵みが生まれているのです。
“梅田ミツバチプロジェクト”では、そんなミツバチを大阪の中心地、梅田のビルの屋上で飼育しています。大阪府の条例をクリアし、ミツバチたちを迎えたのが2011年の3月のこと。ヤンマー株式会社を中心とした7社20名のメンバーで、日々の飼育からビーガーデンの手入れ、地域とのコラボレーション活動、イベントへの出店まで、精力的に活動しています。今回は、プロジェクトメンバーの松本剛さんにお話を伺いました。
プロジェクトが目指すのは、都市部での循環型社会の構築。「都市部でおこなうことに意義があると考えています」と松本さん。ミツバチが受粉することによって、ベランダや庭の菜園では、今よりもっと豊かな実りを得ることができます。その実りやミツバチを目当てに野鳥がやってきます。野鳥が種を運ぶことで周辺地域に緑が増え、増えた花にミツバチが蜜を集めに行き、また新たな実りをもたらす。都市のなかでそんな豊かな生態系が構築されることを目指しているのです。

赤、白、青の屋根がかわいらしい、屋上に置かれたミツバチの巣箱

日々のお世話も今では慣れたもの。今日はどんな様子かな?と定期的になかを覗きます

人がかかわる自然の循環

お話を聞いたなかでも特に印象的だったのが、“鶴乃茶屋倶楽部”との協働による成果です。巣箱がある茶屋町地域の若手住民や店舗経営者、ショップ店長などの有志が集まって活動しているのが、“鶴乃茶屋倶楽部”。彼らと育てた菜の花の実りは、人と自然が関わるからこそ生まれる循環を教えてくれました。

今ではビルが立ち並ぶ梅田の茶屋町地域ですが、江戸時代から明治初期にかけては、一面の菜の花畑が広がっていました。それにちなんで、“鶴乃茶屋倶楽部”では毎年プランターで菜の花を育て、町のあちこちに設置し、行き交う人に春を届けています。

昨年、巣箱の周りに作った菜の花のお花畑。ミツバチはもちろん、メンバーのみなさんも嬉しそう

茶屋町のあちらこちらに置かれた菜の花のプランターは、春の喜びを街に届けてくれます

梅田ミツバチプロジェクトも昨年は菜の花を育てるところから協力し、花が咲いた3月には巣箱の周りに約150鉢ものプランターを並べました。ミツバチたちは「ご馳走だ!」とばかりに菜の花と巣箱の間を行ったり来たり。そのおかげで、今まで見たこともないほどたわわに菜種を実らせ、750gもの菜種油をとることができたそう。その菜種油は、地元にある綱敷天神社の“七夕祭 献燈祭”に奉納され、神事で使う灯りとして利用されました。
「元々周辺が菜の花畑だったときは、菜種油を使って神事をおこなっていたそうです。昨年は、約100年ぶりに菜種油の火を灯すことができ、神社の方にも喜んでいただきました」と松本さん。菜の花はその昔から、花芽を食用に、種から採取した菜種油は灯りに、絞りかすは堆肥にと、人に多くの恵みをもたらしてきた植物。自然の恩恵を無駄にせず、感謝し、その次の恵みに繋げるという、かつては当たり前であった循環に、ミツバチが改めて気づかせてくれたような気がします。

ミツバチの目線で都市を知る

もちろん、ミツバチたちがもたらす大きな恵み“蜂蜜”を忘れていけません。蜂蜜は集める花の蜜によって味が異なることは知られていますが、梅田ミツバチプロジェクトでも採蜜の度に驚きの連続だったそうです。そんな体験を通して松本さんが感じたのは、街の緑の意外な多様さ。「考えてみると、私たちは大阪のどこにどんな花が咲いているのか知らない。蜜をとるたびに色も味も香りも違うというのは、その間、この周囲で何か花が咲き続けているということですよね」。ミツバチは巣箱の周囲2~3km圏内を飛ぶと言われています。つまりプロジェクトで採れた蜂蜜は、ミツバチが遠くの野山まで飛んで集
めてきたわけではなく、大阪の街のなかで咲いている花から集めた蜂蜜ということ。ミツバチの目線になって見てみると、今でも街には意外に花や緑が溢れているのかもしれません。

今日の蜂蜜はどんな味がするのかな?採蜜のたびに、異なる味がするのは周囲にいろんな花が 咲いている証拠です

「なぜ都市でミツバチを飼うのかという説明をすることで、都市のなかにもっと自然を増やそう、緑を増やそうという提言になると思っています」と松本さん。一足飛びに都市に緑を増やすことはできないけれど、ミツバチが生きていける環境を目指すことは豊かな生態系を維持することに繋がります。自然が健全に循環することで、美味しい野菜や蜂蜜を得ることができるのだと、私たちひとりひとりが気づくことが大切です。
梅田ミツバチプロジェクトの蜂蜜を口にする機会があれば、ぜひじっくり味わってみてください。その優しい甘さを味わえば、自然の豊かな実りに満ちた、未来の都市の姿を思い浮かべることができるはずです。

イベントでふるまわれた梅田ミツバチプロジェクトの蜂蜜を使ったパウンドケーキ

巣箱の近くにある花壇。ミツバチのおかげで、たくさんの野菜が収穫できたそう

梅田ミツバチプロジェクト
ホームページでは、活動報告やハチミツを使ったレシピなどを紹介しています。


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