これが現代のキャンパスデザインなのだろうと納得させられた。施設を地下に埋めることはもはや珍しいことではないが、建築家ドミニク・ペローは、歴史あるソウルの梨花女子大のキャンパスに対し、ゆるやかな谷のようにボイド(キャンパス・ヴァレー)を掘り込み、その両側にキャンパスコンプレックスを埋めて地上を庭園化した。少し軸を振っているヴァレーはゴシック様式の本館をダイナミックな構図で浮かび上がらせ、明らかに「由緒ある建物が並ぶ中に、今風デザインの新館を建設する」のとは違う、キャンパス計画のあり方をみせてくれている。
スターバックスはもちろん、レストラン、コンビニ、書店、花屋、映画館、ギャラリー、ホール、フィットネスセンターなどなど、詰め込まれた施設の充実ぶりもうらやましいし、地下化と徹底した制御による省エネルギー効果にも感心したが、人の居方の観点からは、ごくシンプルで大胆な構成のランドスケープ操作とディテールデザインによって、多様なスケールの魅力的な居方風景を創りだしていることに注目したい。
たとえば、掘り込まれた光庭の表面の鱗のようなステンレスは、エレベーターホールの背後に煌めく光を導き、エレベーターを待っているだけの場面が、「女子学生達が輝きに向かって立つ」印象的な情景となっている。ガラスカーテンウォールを支持するフィンは、見る角度によってファサードの表情を変えるだけでなく、その側面にヴァレーを颯爽と歩く学生の姿を「予兆」および「残像」として映し出す。
そして何よりもキャンパス・ヴァレーが創りだす風景。本館側はひな壇型、街側はスロープの斜面、それぞれ新鮮な人の居る風景を生み出しているが、特にスロープ側は、そこを行き交う多数の人々の全身のシルエットを、重ねることなく垂直に分散させて視野に入れてくれる。それは水平面の世界では不可能な見え方であり、斜面の持つ力を再確認させてくれる。