コモンズとしての縁台

〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜

Lae-Lae島はインドネシアのスラウェシ島南部に位置する都市マカッサルの沖合にある小さな島である。人口はおよそ1500人で多くの住民は漁業を営む。

コモンズとしての縁台 〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜
コモンズとしての縁台 〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜

人々は親切で人なつっこく,人物写真が苦手な私でも,とびきりの笑顔が簡単に撮れてしまう。歩いているとあちこちに放し飼いのヤギがいて水平線のかなたを見つめて座っている。なんというか夢のような島だった。

歩いて一周するのに30分もかからないこの小さな島の中に150余りのバレバレがあった。バレバレとは西洋風にいえばストリートファニチャー,背もたれのない大きなベンチ,一言でいえばインドネシアの縁台である。

コモンズとしての縁台 〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜

サイズは畳より小さいくらいのものから,20人近くが座れるものまで様々である。置かれる場所についても,住居のピロティ部分に置かれるタイプ,家に接して置かれるタイプ,庭に置かれるタイプ,道ばたに独立して置かれるタイプの4種類がある。独立タイプには屋根がある場合もある。部材は木または竹で,多くの場合は自分達で造ってしまうが店で購入する場合もあるようだ。

コモンズとしての縁台 〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜

バレバレの使い方は多様である。一人でただ座っていることもあるし,数人で話をしていることもある。大人だけの場合もあるし,子ども達だけで遊んでいることもある。赤ん坊をあやしていることもあるし,昼寝をしていることもある。かと思えば器具を持ち込んで食事をしていることもある。

コモンズとしての縁台 〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜

何より驚くのはその領域意識である。信じ難いことに,誰がどのバレバレを使ってもいいのだという。ほとんどのバレバレにはオーナー(設置した人)がいて私有物のはずなのだが,万人にオープンであり,いわばコモンズ的なスペース(社会的共通資本の空間版)と言える。試しに子ども達にバレバレの写真を見せると,即座にあそこのバレバレだと当ててしまう。彼らは島中のバレバレについてよく知っているのだ。

コモンズとしての縁台 〜インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方〜

バレバレに集まっている人に自宅を尋ねると,すぐ近所の人達ばかりの場合もあるが,それぞれ遠くからバラバラに来ている例も少なくない。また一人の住民は複数のバレバレを使っているのが普通である。なぜわざわざそのバレバレなのか,理由やルールは全くの謎である。まもなく2回目の調査でLae-Lae島に向かう。バレバレの秘密が解明されることを期待していただきたい。

すずきたけし
大阪大学大学院工学研究科准教授(地球総合工学専攻 建築・都市デザイン学)。1957年生まれ。建築計画、環境行動デザイン研究。共著に『建築計画読本』(大阪大学出版会)、『環境と行動』(朝倉書店)、『住まいのりすとら』(東洋書店)。

<これまでの居方>

祈る人
ここではない場所とつながる居方
よじ登る子ども達
みんなで,全身で確かめる彫刻
街角の予告編上映会
映画「ニュータウン物語」自主上映会街頭宣伝
羊に座る体験
上海万博オランダ館の居方
もう一つのOSOTO
屋上の居方
コモンズとしての縁台
インドネシアLae-Lae島,バレバレの居方
ワイルドなベンチ
メキシコ国立自治大学の彫刻空間の居方
そこに居る「あなた」
パレ・ロワイヤルの居方
斜面とディテールが生み出す風景
梨花女子大学キャンパスコンプレックスの居方