そんなもの売れるわけがない。数年前に日本で「Nike + iPod」なるものが販売されたときに感じたことだ。ランニングシューズのなかに専用のセンサーを入れて走ると、センサーが感知した歩数がiPodに送られるという。iPodで音楽を聴きながら走れば、ランニング中に距離や時間や消費カロリーが音声でフィードバックされ、その記録はiPodをパソコンにつないだ際に蓄積されて日々の変化がグラフで確認できるそうだ。面白い仕組みではあるが、日本でそんなことをしたがる人がいるように思えない。事実、河川敷や公園でこの種のセットを身につけて走っている人にほとんど出会わない。

ところが、サンフランシスコにはこの種のランナーがたくさんいる。海岸や公園でたくさんの人がランニングしているし、その腕にはiPodが装着されている。さすがは、Nike社とApple社のお膝元であるカリフォルニアだ。この人たちにとって、センサーを靴に入れるだけで各種情報が蓄積されるのだから「Nike + iPod」というのは嬉しい仕組みだろう。

ツールからはじまるおそとの使いこなし

「Nike + iPod」だけではない。アメリカ人は屋外空間を快適に過ごすためのツールをたくさん持っている。そして、これらのツールをうまく使いこなして夏でも冬でも屋外空間をうまく使いこなしている。たとえば、ポケットにトランプを忍ばせておいて、ちょっとでも時間ができたら友達と広場でカードゲームをする。常に愛読書を持ち歩いていて、気持ちのいい芝生広場を見つけたら恋人と一緒に寝転んで読書する。屋外空間で食事するためのグッズをバスケットに入れて持ち運ぶ。気温の変化に対応するため、カバンのなかにはセーターやブランケットが入っている。少しでも寒くなればすぐに上着を着たり、大きなブランケットに包まったりする。ほとんど手ぶらで外出するくせに、ギターだけは欠かさず持ち歩く友人がいる。そんなに大きなものを持ち歩くのならもっと別のものを持ち歩けばいいのに、と思うのだが、彼にとっては財布とケータイの次に必要なものだという。カフェでも公園でも、時間と空間を見つけてはギターを弾いて楽しんでいる。

屋外空間を使いこなすために必要な要素がいくつかある。もちろん、快適な空間は必須だろう。一緒に楽しむ仲間も重要だ。もちろん、そのための時間を確保することも必要だろう。それらに加えて、楽しい時間を過ごすためのツールも大切な要素である。空間、仲間、時間、そして道具。屋外空間を使いこなすためには、3つの「間」と1つの「具」が必要なのではないか。アメリカで屋外空間を楽しんでいる人を見るにつけ、そんなことを考えるようになった。

最近iPhoneを購入した。あとはセンサーを購入してシューズに入れるだけで、音楽を聴きながら走った距離を記録することができる。ちょっと試してみようかな。