世界の屋根と称されるチベット高原の中心部に位置するチベット自治区の首府ラサ。
中国政府の支配・統治にともなって生じる各種の問題を抱えながら、チベット仏教文化圏の中枢として変化を続ける街の空は、抜けるように青かった。

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市内中心部の屋上レストランから。高層建築はほとんどない

左)ホテルロビーにあった市内略図 右)ホテルの中庭にはタルチョ(五色の祈祷旗)がはためいている

左)ホテルロビーにあった市内略図 右)ホテルの中庭にはタルチョ(五色の祈祷旗)がはためいている

 

 

 

ポタラ宮とポタラ宮広場
ダライ・ラマ14世がインドに亡命するまで約300年にわたり、チベットの聖俗両界の中心地であった ポタラ宮。ダライ・ラマ5世が建立した白宮とその後増築された紅宮をメインとし、その高さは宮殿が建っているマルポリの 丘も含めて115m。内部の壁、柱、天井にはその歴史がびっしりと彫刻、装飾として刻み込まれ、塑像、壁画、霊塔、書物など、圧倒的な量のチベット仏教芸術が収蔵されている。建築とチベット仏教芸術がその品格を高め合うように、丘の上にそびえていた。

ポタラ宮広場からみたポタラ宮夜景

ポタラ宮広場からみたポタラ宮夜景

ポタラ宮から見たポタラ宮広場

ポタラ宮から見たポタラ宮広場

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左)ポタラ宮入口付近から  右)ポタラ宮中腹。高地のため、息があがる

 

 

ポタラ宮前面にはポタラ宮広場が広がり、チベット和平解放50周年の記念碑と、大型噴水(音楽に合わせて多様に様相が変化する)が設置されている。日中は日差しがとても強く、年間降水量が日本の8分の1と乾燥度の高い気候であるため、噴水を中心に、観光者だけではなく現地住人の憩いの場としても賑わいをみせる。
夕暮れ時、ライトアップに浮かび上がるポタラ宮、ゆれる噴水、チベット音楽、集う人々、それを覆う星空。いわゆる観光地に見られる仕掛けと品格のバランスが独特で、忘れがたいおそとを体感できる。

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ポタラ宮広場の噴水。コンピュータ制御でかなり多様な動きを魅せる

 

 

ノルブリンカ
ラサにある離宮とその庭園で、36k㎡の敷地内に歴代のダライ・ラマが建てた離宮が点在している。世界遺産でありながら、敷地内公園部分は市民に開放され、若者から高齢者までたくさんの人々が木陰を利用して休日の午後を楽しんでいた。

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敷地内の公園部分。かなりフランクに広場使いされている

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左)写真はダライ・ラマ14世が生活していたタクテン・ミギュ・ポタン 右)離宮を囲む擁壁

 

 

 

ラサの街並み
中国政府の資金投資により観光地化が進んでおり、大通り沿いの街並みの構成自体は中国国内のその他の地方都市と大差はない。目につく違いは、ガラス張りの建築が少ないこと。強い日差しをコントロールするため、ほとんどの開口部にチベット独特の幾何学パターンをかたどった格子状の日よけが施されている。
大通りから街区内に入ると歩行街が広がっている。大通り沿いよりさらに伝統的な建築様式が用いられており、かつその様式がポタラ宮などの寺院建築のものと共有されている。結果的に(毎日強烈な晴天であったことも大きな要因だと思うけれど)数日間滞在中の街歩き、寺院建築訪問を通して、連続的で協調性の高い空間体験として強く記憶に残った。

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歩行街には、全般的に伝統的な建築様式が用いられている。陰の有効利用が重要

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左)杖で両手がふさがるため可愛い傘を装備するおばあさま
右)大通り沿いを走るリキシャから。歩行路街に比べ一般化されている

 

 

 

陸路と空路
ラサへのアクセスに関して。2006年に完成した青海鉄道を利用した陸路と成都等からの空路があるが、両路共に窓越しに壮大なおそとを堪能することができる。
陸路の場合は標高と共に変化する植生と建築群、刻々と変化する空模様の組み合わせが、ダイナミックな景色を演出する。牛、羊、ウサギ、風車、現地住民なども登場し、人間も含めた自然のPVを大画面で観ているような感覚になる。
空路の場合、ラサに近づくにつれ、山の標高が雲の高さを越えはじめる。気が付けば一面に雲から突き出した山頂群が広がり、自然の壮大なスケール感を目の当たりにする。ラサへ行く際は是非、陸路と空路双方から自然の力を感じたい。

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青海鉄道の車窓から。永遠に続くかのように見える高原

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ラサ近くの上空。雲から飛び出した山頂がはっきりと見える

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その他車窓からの風景

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左)青海鉄道のラサ駅。気候を生かした大空間が印象的
右)ラサから東へ3時間ほど移動したところにある駅。ラサよりはましだが、まだまだ日差しが強烈

 

 

ダライ・ラマ14世が亡命し、主を失ったポタラ宮が観光の目玉となり、観光地機能の充実度が高まりを見せるラサ。それでも道端では信仰心の深い人々が朝早くから夜遅くまで祈りをささげ、世界中から巡礼者が訪れる。圧倒的な宗教文化と壮大な自然の魅力が原動力となり、合理性とのバランスを取りながら成立している街。チベット仏教に信仰がないどころか、そもそも宗教に対する信仰が薄い一人の日本人が、ただ好奇心に導かれ訪れたその状況は、その物理的距離、標高差以上に遠い、価値観のおそとを感じさせてくれた。

 

参考資料:『地球の歩き方 チベット2012-2013』 (ダイヤモンド・ビッグ社)