アメリカ西海岸北端の都市、シアトルに長年暮らした。ランドスケープアーキテクチャーという屋外空間の設計、すなわち自然と人間の生活の両方に関わる勉強をするのに、シアトルが向いているのではないかと思ったのが、この街に住むことになったきっかけだ。その期待通り、シアトルは自然と都市がバランスよく共存する街だった。

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針葉樹に囲まれた郊外都市から、ワシントン湖越しにシアトルダウンタウンを望む。都市と自然がすぐそばにある

 

「エメラルドシティ」とも呼ばれる、針葉樹の森と湖に囲まれたこの美しい街は、80年代以降のITブームで小さな街から大都市へと急成長した。大都市になったとはいえ、いまだにシアトルの人は洗練された都会人というより、自然の中で過ごすのが何よりの楽しみというアウトドア派が多い印象だ。夏のキャンプ場は半年前から予約でいっぱいになり、冬は雪山のゲレンデの状況がよく話題にのぼる。近くに国立公園や州立公園、海に点々と浮かぶ島々など、絶景といえる場所が数え切れないくらいあるので、外で過ごすのが好きな人にはたまらない街だ。

 

しかし、豊かな自然を楽しめるのは事実なのだが、シアトルの気候は過酷でもある。一番心地よい季節である夏は短く、7月初めの独立記念日の祝日(7/4)に始まり、9月初めのレイバー・デーの祝日(9月の第一月曜日)に終わると言われている。それ以外のときは、肌寒くどんより曇って、雨がぱらついていることが多い。気が滅入るような天気の日は、「コーヒーでも飲まないと一日が始まらない」気分になり、ここがスターバックスやシアトルズベストなどのコーヒー店発祥の地なのも、納得がいく。

 

あまりに雨の日が多いので雨天中止というものはなく、屋外イベントはたいてい決行される。防水性のコートとブーツは必需品だ。しかし、慣れてしまえば、適した装具を身につけて、小雨の中森林を散歩するのはとても心地よい。自然との生活は、様々な状況を受け入れ、うまく折り合いをつけながら行われるのだから。

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シアトルからフェリーで30分のベインブリッジ島。水辺の散策が気持ちいい静かな所だ

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(左)針葉樹と野生の草花が美しいレーニア山
(右)冬は防寒、防水装備でハイキング(”Mount Si” by Daniel Gasienica / CC BY)

 

この自然と人間の生活の折り合いは、都市のデザインにおいても同様に行われている。例えば、環境問題に対するアプローチ。シアトルは雨季と乾季による季節ごとの川の水位の変化が大きい上に、都市化が進んで地面がどんどん舗装されたことで、雨が川へ短時間に流れ込む量が増えた。そのため、崖崩れや土砂崩れが頻繁に起こり、川の水質が悪くなり、川にたくさんいた鮭が減少するなど、他の生き物へも影響を与えるようになった。

 

この問題への対策として、ある程度の規模の雨が降った時に、その敷地内に降った雨水を貯めておける仕組みが、住宅の庭、道路脇、地下など様々な場所で用いられているのだが、ここではある公園を紹介したい。

 

シアトル郊外にあるミルクリーク・キャ二オン・アースワークスパークは、彫刻のような地形が印象的だ。そしてこの土地の起伏が雨水を貯めておく池として機能し、雨の量によって池になる範囲が変わる。今でこそ環境デザインという言葉はよく聞かれるが、この公園が完成した1982年の時点ではまだ、エコロジーと人が使うランドスケープの融合という考え方は新しかったのではないだろうか。

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アースワークスパーク。彫刻のような地形が水害を防ぐ
(John Hoge, 1982,  City of Kent Arts Commission)

 

シアトルの住環境の素晴らしさは、住む人々の自然環境への意識の高さ、経済発展を進めながらも自然の豊かさを守り、より良くする努力を行うという、バランス感覚の賜物だろう。この環境づくりに貢献してきたデザイナーたち、それを支える地域文化に拍手を送りたい。