私は、かわいいものや、かわいい事が大好きで、色んな国にかわいい雑貨を仕入れるために訪れています。12年前の2002年5月にロシアを初めて訪れた時は、24回もこの大地に立つ事になるとは、全く思っていませんでした。
ロシア雑貨は、植物や動物のモチーフが多く、私の好みと共通していて、そこが年数回も渡露する理由のひとつだと思います。最初にロシアに行ってみようと思ったきっかけは、友達がくれたウラジオストク土産のポストカードでした。赤とピンクのカーネーションの絵が描かれていてロシア語で何か書かれていたのですが、そのレトロで切ない感じにぐっときたのです。現在の私はアンティークのポストカードもたくさん買い付けているので、その友人のくれたものが国際婦人の日のカードだという事がわかりましたが、その時 は全く理解できないキリル文字(注1)にも、すごくかわいくて興味をひかれたのです。
ロシア雑貨は、洗練されてはいないけれど、柄on柄などの組み合わせの絶妙さや、冬が長いせいか、その間におこなわれる手仕事による雑貨の繊細なかわいさもあって、もっとかわいいロシア雑貨に出会いたいという思いは高まる一方なのです。
私がよく訪れるモスクワの街には、ニュースなどでもよく目にする玉ねぎの様な形の屋根の教会が、数ブロックごとにあります。他には、スターリンクラシック様式というウエディングケーキのような建物があったりして、街歩きには飽きません。土地が広いので、大きな森や湖などが街の近くにあり、そこでのキノコ狩りやテーブルと椅子を運んでお茶をする事は、ロシア人が大好きな楽しみのひとつです。
また、森かと思うような公園や、美術館やコンサートホールの前にも公園のように整備された広場を多く見る事ができます。人々は、そこに置かれたベンチに腰掛けて話をしたり、子供達は色んな遊びをしたりしています。大きな噴水もたくさんあって、夏には水着で水浴びをしたり、その近くにシートを敷き日光浴をしていたりする人もたくさんいます。寒い冬を元気で乗り越えられるために、小さい頃から外で遊ぶように習慣づけられていて、体が丈夫になっているような気がします。
冬の事 ですが、公園ではあまり人は見かけませんが、クリスマスやマースレニッツァ(注2)というお祭りなどの時に外で遊んだり、お絵描きをしたりする子供達を見た事があります。また、雑貨の買い付けに野外の蚤の市に通っているのですが、マイナス20度の冬でも外で品物を売っている根性はいつも見習いたいと思います。チェスなどのボードゲームも大好きなロシア人ですが、蚤の市でもチェスボードを出して野外でチェスをさしている姿をみかけます。マイナス20度の冬にも必死で次の一手を考えているおじさんを見た時 には、とても驚きました。
とても散歩が好きというのもロシア人の特徴です。友達や家族と、そしてデートの時なども、公園を何時間も語り合いながら散歩をします。私達日本人は、お話をする時にすぐに喫茶店に入ってしまいますが、外の風景の移り変わりを感じながら語らうのは、とても素晴らしい事だと思います。
雑貨を買い付けるうちに現地の知り合いもできたりして、彼らの生活に対する考え方に少しずつ触れるにつれて、どんどんロシアにのめり込んでいきました。そこでわかったのが、「ロシア人は自然が大好き」という事です。
ロシアにはダーチャという週末を過ごす別荘のようなものがあります。都会から少し離れた郊外にあり、希望者が国から与えられた土地に小屋を建てたり畑仕事をしたり湖で遊んだりするような場所で、「ダーチ=与える」という意味のロシア語から「ダーチャ」と言われます。このダーチャを訪れた時に、そこの住人達の生活を見たり、話を聞いたり、また別の機会にも、ダーチャで自然と接する事の楽しさを語る人達に出会ったり、散歩をしながら自然の事を語り合ったりしている様子を聞く事で、自然が好きなのだと思いました。
驚いた事に彼らは、ダーチャでは自分達で家を建て、電気やガスをひき、土を耕し、花や農作物を作っています。その建物や庭は、自由な仕上がりで掘っ建て小屋の様ですが、家の中の壁紙を花柄にしたり、好きな猫の写真をはったりととてもかわいく使っています。日本では郊外に土地を持って週末を過ごすというのはとても贅沢ですが、一般の人達が普通に楽しく過ごせるこの国のシステムがとても羨ましいです。
最初に訪れた12年前と比べると、ロシアにも西欧やアメリカの文化がたくさん入ってきていて、カフェがすごく増え、欧米によくあるようなお店やスーパーが増えました。そして自然モチーフのかわいい雑貨は少なくなりつつあります。これからも移り変わって行くロシアの姿を見つめ続けて行きたいです。
注1)キリル文字:ロシア語に代表される旧ソ連諸国の言語に使用される文字。
注2)マースレニッツァ:冬を送り、春を迎えるお祭り。2月下旬の四旬節の前の週に1週間かけておこなわれる。
井岡美保著『ロシアと雑貨 ラブリーをさがす55の旅 』(WAVE出版)
奈良の奈良町でカフェ「カナカナ」を営む井岡さんが雑貨の買い付けで旅したロシア。24回訪れたからこそわかるラブリーな街の事や様々な雑貨の事を写真と文で紹介されています。ロシアの現在のおそと事情を詳しく楽しく知る事ができる貴重な一冊といえるでしょう。