昨今、英国からの独立運動で注目されているスコットランドの首都エジンバラ。日本人にはあまり馴染みのない街かもしれないが、イギリスではロンドンに次いで多くの観光客を集めている、歴史がひしめく城塞都市だ。私はかつて留学生として、ここで約2年間生活を送った。それがきっかけとなり、すっかりこの街の魅力に取り付かれてしまった。イギリスの寒く暗い気候から来るネガティブなイメージを一掃するほど、ポジティブで人懐こいオーラが街を包む。たとえ寒く曇った日でも「散歩でもするか」と、自然にそんな気分にさせてくれた、エジンバラの不思議な魅力を紹介したい。
豊かな地形からなるダイナミックなランドスケープ
6世紀にケルト人が建てた要塞を起源とするエジンバラの街並みは、その独特な地形により国内でも他に類を見ないほど圧倒的な個性を放っている。特に世界遺産に登録される旧市街は、火山溶岩によって造られた岩盤上に出来ており、Castle Rock(この上に城塞が建っている)やArthur’s Seatと呼ばれる岩山は、氷河期に溶岩が氷河によって削り取られた後の残丘である。このように長い年月を経て岩山や深い谷が形成され、その上に人の営みが重なり合い街は造られていった。
「Close」、「Step」、「Bridge」が錯綜する旧市街
激しい起伏が特徴的な旧市街には、Closeと呼ばれるトンネル状の路地や、階段(Step)や坂が所狭しとばかり張り巡らされている。それぞれにはストリート名と同じように名前がつけられ、古くからの云われや歴史が存在している。加えて道路の上空には橋(Bridge)が交差しており、はじめて訪れた人にとっては、もはや立体迷路である。
オープンスペースを使い倒す日常/非日常の宴
日常の宴①-元祖立ち飲み文化
イギリス文化の代名詞、パブ。季節を問わずパブは多くの人々で賑わっている。おしゃべりを酒の肴に、延々とビールを飲み続ける夕暮れ時の宴が街角の風景を彩る。イギリス人の日常に染みついた井戸端会議のようなこの立ち飲み文化の習慣は、エジンバラでも街の風景をつくる大事な要素となっていた。パブを見れば、この地では文化と風景が密接に関係し合っていることが良く分かる。
日常の宴②-元祖ピクニック文化
ピクニック発祥の地であるイギリス。公園でくつろぎ、語らい、食事をすることは彼らにとってはパブでビールを飲むのと同じように当たり前の日常の習慣である。ランチをもって公園へ出かける親子連れや老夫婦、フットボールやBBQをする若い学生らで公園は毎日宴のような賑わいを見せる。彼らはやっぱり芝生が大好きらしい。
非日常の宴-フェスティバル文化
観光客数がピークを迎える8月。街はお祭りムード一色になる。世界中から一流のプロフェッショナルが集う音楽・演劇・ダンスなどの各種国際芸術祭と、「フリンジ」と呼ばれるアマチュアパフォーマー達がしのぎを削る祭典が開催され、多種多様なパフォーマンスが街のいたるところで同時に行われる。ストリートや広場、空き地や空き店舗や学校など、ありとあらゆる場所が会場になるため、毎年8月の1か月間は街の風景がガラリと大きく様変わりする。この間、世界中から集まる演者や観光客が街に短期滞在するため、市内中心部の人口が平生のおよそ2倍に膨れあがると言われている。一方、街のシンボルであるエジンバラ城では軍楽隊と兵士が行進する大規模なパレードの祭典が行われ、毎晩花火がエジンバラの夜空を彩る。
冬はクリスマスから年明けにかけて、祝祭ムードが一気に高まる。「ホグマニー」と呼ばれる大規模なニューイヤーイベントが行われるからだ。公園では仮設遊園地やスケートリンク、クリスマスマーケット等が現れ、それらが雪景色と共に、夏とは異なる趣で街の風景を彩る。
この街の素晴らしさは、人の歴史と自然(地球)の歴史が密接に関わり合いながら独自の風景を作り上げてきたところにある。そしてその風景の価値を市民はしっかりと理解し、誇りに思っている。だからこそ彼らは外で過ごすことを尊び、その時間を大切にしているのではないだろうか。そしてもうひとつこの街が愛される理由は、歴史的・地理的側面とは別の祝祭的な魅力を持ち合わせているところにある。「エジンバラ=フェスティバルシティ」のイメージは、スコットランド人ならではの、親しみ深い人情味や社交性が生んだ産物なのかもしれない。エジンバラで出会い2年間を共に過ごした友人たちを思い出し、そんな風に感じずにはいられなかった。